本書はフィクションから始まる。天然ガス施設や住居ビル、そしてネットワーク中枢の爆破、ハッカーによるエネルギー制御システムへの直接攻撃やDOS攻撃による電力と通信の麻痺、カルテ改ざんによる医療体制の麻痺、そして経済が完全に停止する。これらは、決して著者の頭の中だけで組み立てられた物語ではない。その細部は「ブラックアイス」と呼ばれるシミュレーションの結果に基づいている。
気がつけば、現代では重要インフラのほとんどがコンピュータシステムによってその大部分を制御されている。つまり、サイバー攻撃はすなわち現実社会への攻撃となる。その具体的な脅威、そしてその脅威に備えて何をしなければならないかが本書の主旨だ。
アメリカに劣らぬほどシステム化の進んだ日本はどうだろうか。技術的なレベルでセキュリティについて語られることは多いが、インフラシステムが機能不全とならないため、もしくは機能不全となった際の影響や対処方についてはまったく語られていないのが実状ではないだろうか。2001年9月11日を経験した国とそうでない国の差が本書に表れている気がしてならない。巻末の宮脇磊介・初代内閣広報官の2つの指摘も今の日本のサイバーセキュリティの脆弱性を鋭く指摘している。(大脇太一)