魔法が解けてしまうことの哀しさ
★★★★☆
精神科医ディック・ダイバー、その妻ニコールは、彼の元患者だ。フランスのリヴィエラで夏を楽しむ彼らの周りの、アメリカ人グループの中の一人、新進気鋭の若手女優ローズマリーに惹かれていくディックだが……。
狂乱の1920年代を時代の寵児として駆け抜けたフィッツジェラルドとその妻ゼルダ。このままは続かない、ということを誰よりも強く理解しながら、それ以外の生きかたをできなかった二人。そんな現実を醒めた視点で観察しながらも、同時にその当事者でもあることの痛みが、ディックが妻の精神科医である、という設定にはっきりと出ています。妻を愛する心と、医者としての冷厳な観察眼との間で揺れ動きながら、アル中気味で、ケンカも浮気もする不完全人間ディック・ダイバーは当時のフィッツジェラルドその人でしょう。「ギャツビー」ではニック・キャラウェイというキャラクターの視点を通してある意味客観的に描いていたのと対照的に、本書では視点がディック・ダイバー自身に内在していて、その分キャラクターの痛みが直接的です。
徐々に華やかな生活も色褪せて機能しなくなり、自分自身も変化していく、そんな熟成したフィッツジェラルドの複雑な心境がそのまま文章になっているような感があります。痛々しいのだけれど、それでもどこか客観的な視点を持ち続ける主人公の不気味さに、輪をかけた痛切さを見てしまうのは私だけでしょうか? 魔法が解けてしまうことの怖ろしさ、哀しさが伝わってきます。
発表当初は評判が悪く、フィッツジェラルドは全編改稿したそうです。今一般的に手に入るのは書き直されたバージョンのようですが、一から書き直したという割には一貫性に欠ける面もあり、作者の意識の揺れを物語っているように思います。
ギャッツビーよりよい作品
★★★★☆
フィッツジェラルドの作品に一貫して流れるテーマは、下層階級を出自としながら上流社会へと立身出世した青年と、その「引っ越した」先にもともといた育ちの良い「高値の花」とのロマンスをモチーフに、華々しく黎明の瞬間を迎えたアメリカ大衆消費社会における光りと影を描くというもの。本作品もその筋は保持しながらも、ロスト・ジェネレーションさしく舞台をヨーロッパに据え、気鋭の精神科医とその患者とのロマンス、そういう道ならぬ関係ゆえに生じる亀裂、そして「失われた」世代特有の「堕落」が正に作品の名の通り夜気を帯びた雰囲気のなかどこか優しさのフレーバーを伴って徒然と展開していく文体、そしてギャッツビーより遥かに日本人好みのつまり余韻をともなうラストに、出色さを認めざるを得ない。
Relationships always change with time.
★★★★★
Dick was my dream guy early in the novel. I admired him for his love towards Nicole and his self-discipline towards Rosemary. He did his best to protect Nicole who was mentally ill after a tragic event with her father.
Unfortunately, Dick's marriage to Nicole turned out to be a failure when Dick couldn't control himself anymore. He broke down. I felt sorry for him. He deserved better than that.....
This was one of the most romantic novel I ever read.