数学を愛する全ての方に
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本書の主題は、表題にあるX2+nY2=p(n≧1)という不定方程式の有理整数環上での可解条件を明らかにするという目的で貫かれている。この問題を縦糸に、そこに用いられる歴史的天才達の様々な着想を横糸にしてつづれ織りのように一つの物語を紡いで行く様は誠にに素晴らしい。
この方程式の可解性の追求は、Fermatの欄外ノートに始まり、その後、Euler,Lagrange,Legendre,Gaussが扱ってきた由緒正しき問題だ。FermatからGaussに至るこの問題への追求の道筋は本書の第1部に著述されている。だがEuler,Guassに至る4次までのべき剰余相互法則の解明を以ってしても特定のn場合の可解条件しか求まらない。それが、第2部に於いてべき剰余相互法則を一般次数の場合に追求して成立した類体論の力を用い、この方程式の任意のnに対する可解条件を書き下すことが可能になる。しかし著者はこの問題に対して追撃の手を緩めない。類体論のみではEffectiveな可解条件は求まらず、本書の第3部に述べられているように、その条件を人間の手で計算できるようになる為には虚数乗法論という虚二次体に対する相対Abel拡大(即ち類体)の構成理論が必要となるのである。
だが不定方程式の可解性の追求という本書の立場(Diophantus analysis)を論理的な立場とし、同じこの問題を発祥とするGaussに始まる相互法則の追求を本質的な立場と解釈する向きもある。本書を手にする方々は是非、高瀬正仁の2著"ガウスの遺産と継承者たち"(海鳴社1990)及び"無限解析のはじまり"(筑摩書房2009)を併読してその所論を味わって欲しい。そうすれば本書を読んで得られる興奮は倍化されるに違いない。
内容豊富な(第3部に類数1の虚二次体の決定についてのHeegner-Starkの証明が記載されているのには恐れ入る)本書はとても面白い。普段は解析解析と言っている評者にとっても、のめり込むそうになる程の魅力がある。代数的整数論の教科書を手元に置いて本書を読み進められるならば、近代数論の発祥から如何に多くの深い着想が積み重ねられてきたかが実感できるだろう。本欄に書評を挙げておられるレビューアの方と同じく、評者も本書を次のように評したい。"数学を愛好する全ての方にお薦めしたい凄い名著である"と
類体論と虚数乗法論に誘ってくれる素晴らしい書
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与えられた自然数n(例えば、14、27、64)に対し、素数pが書名にある2次形式で表現できる条件は何か?この問題に近代数論の輝かしい成果である「類体論」と「虚数乗法論」が密接に関係する事を教えてくれる本書は実に素晴らしい。
この問題が難しいのは、虚2次体K=Q(√-n)に対し、Z[√-n]がKの整数環Okに一致しない(その部分環に過ぎない)場合があるからなのだ。この困難を克服すべく、本書第2部で、虚2次体の整環のイデアル類群の理論を構築し、類体論(アルティンの一般相互法則)を用いて、そのガロア群Gal(L/K)が整環Z[√-n]のイデアル類群と同型になる類体Lが存在する事を主張する。これにより、Lはある実数αによりL = K(α)と表され、素数pの表現問題は、「pがnの約数でなくLで完全分解する」という条件に翻訳される事になる。
本書第3部では、「虚2次体の整環Oのイデアル類は、Oに虚数乗法を持つ格子の同値類に1:1に対応する」事が示され、モジュラー関数j(τ)と虚数乗法論の主定理から、α= j(√-n)である事が導かれる。従って、問題はj(√-n)、即ちその最小多項式(類方程式)、を具体的に求める事に帰着する。本書では、モジュラー方程式を用いて、類方程式を具体的に計算するアルゴリズムが存在するという事まで詳説されている。
代数体(素イデアルの拡大体での分解法則、2次体や円分体での実例)と楕円関数論の基礎知識だけを前提とし、ガウス以降の数論の本流に案内する本書は抜群に面白く素晴らしい。数学を愛好する全ての方にお薦めしたい凄い名著である。