IBM東京基礎研究所のようす
★★★★☆
IBMと言う大企業の東京基礎研究所所長を勤めた人(現在はキヤノンのデジタルプラットフォーム開発本部のようです)のエッセイです。研究部門の様子がよくわかります。もちろん所長によって研究所の運営は異なるでしょうけど、企業での研究職を得ようと思う人には実例として興味深く読めるでしょう。自分の専門にこだわる視野の狭い人になるのでなく、好奇心を持って知らない分野に取り組んだり、顧客と言う研究結果のユーザの希望を理解できる人にならなければならないようです。キャリアの延ばし方や、人とのコミニュケーション、働く意欲など、社会人としての一般的な事も扱われています。守秘義務の扱い方、捏造などの「技術倫理」についても触れられています。ただ、技術的に可能な事をやみくもにつくるのでなく、その社会的影響と開発者としての責任を自覚するという視点、社会貢献などの議論は少なかったようです。
企業研究者を目指す学生は勿論のこと、企業研究者にも参考になる。
★★★★★
日本IBMの東京基礎研究所で所長を務めた著者が、研究の進め方・キャリヤ形成の考え方などを研究員に対して発信してきたレター(社内ブログ)を中心にして構成された本です。企業研究者を目指す大学生〜大学院生は勿論のこと、企業研究者が読んでも参考になります。(そもそも、"所員向けのメッセージ"が基になっているのですから) MOT関連テキストのような堅苦しさはなく、とても読み易いです。
"Research That Matters"−"世の中にインパクトを与える(役に立つ)研究"を、研究者個人として/研究組織として どのように進めていけば良いのかについて、著者の思いが伝わってきます。「innovation は invention × insight」「説得より納得」など、切れ味の鋭い言葉を味わえます。そして、"人"を動かすのはNeedではなくWantなんだな、と気付かされます。(ここで"人"は"自分"及び"相手"の両方の意を含みます)
他のトップクラスの技術屋さんの著書(例:「プロ技術者になる エンジニアの勉強法」、「キヤノンの仕事術」、「技士道 十五ヶ条 ものづくりを極める術」、「若きエンジニアへの手紙―「実験」とは何か、「研究開発」の現場とは」)と読み比べてみると面白いと思います。トップに立つ技術屋さんにはシッカリした「哲学」があることに気付かれることと思います。研究者に求められるのは個々の情報の間に潜む関係性("メタ情報")を見抜く"コンテキスト思考力"("文脈力")だなぁと、本書を読みながら改めて思いました。
【主要目次】
第1章 企業における研究のあり方
第2章 研究について
第3章 コミュニケーションの大切さ
第4章 研究者のキャリア
第5章 リーダーシップについて
第6章 企業の研究所のマネジメント
第7章 知財・契約・技術倫理
第8章 研究所の風土
第9章 企業の研究者をめざす学生の皆さんへ