日本の高等教育に欠けているものがすべて書かれている
★★★★★
ジョン・ヘンリー・ニューマン卿の古典的「大学論」を敷衍しながら、議論を始める。20世紀アメリカの高等教育は19世紀にヨーロッパに留学し、学位を取得したアメリカ人留学生たち帰国後大学改革に成功した成果でもある。ミシガンのタッパン、ハーヴァードのティクナー、ジョンズ・ホプキンスのギルマン学長たちの功績が実に大きい。その範となったのはドイツの大学である。しかし、理念として尊重されたのはニューマン卿の大学論である。この議論を現代の視点から振り返りながら、大学という高等教育の理論と現実を批判的に振り返り、普遍的な大学像を描き出す。著者が聖書学者としても著名であるが故に、議論の深度が深く重厚である。大学教員は、批判的視点で学術に関わる故に基本的に「反体制」である、という指摘は教育がいかに民主主義を維持するかという原理原則を確認しているアメリカ・リベラリズムの知的なバランス感覚そのものである。許認可体制で教育を維持する日本との異質さを象徴的に著わしている。大学人にこうした基本認識があれば、空疎な教育改革・教養部解体などの愚行は起こりえなかったはずである。実践に裏付けられた名著である。
ペリカン博士は2006年5月13日に逝去。ご冥福を祈ります。