しかし、本書は決して事大主義的な大国家主義を主張するものではない。ただ、チトーの民族融和と「自主管理」には、批判的に受容するという複雑な立場をとる。論旨がはっきりしないほど、直線的な物言いを避けているところに、政治家ではなく作家らしさが出ている。
偏狭な民族主義にはもちろん批判的で、特に郷里の橋を武装勢力が落としたことへの怒りをつづった章は印象的であった。
そのほか、イヴォ・アンドリッチなど日本ではまだ紹介の少ない東欧文学の紹介も巧く織り交ぜてあり、東欧文学案内としても使える一冊である。