池澤夏樹の主観に浸る心地よさ。
★★★★☆
池澤氏本人が述べているように、本書は対をなす雷神帖に比して、人に近い内容のエッセーが
集められています。特に時代を遡りながら著者を取り巻く環境(氏の父や母、関係のあった
各々の土地など)に展開されたエッセーは時に心地よく、そして時に読者の知識と思想を
問いかけてきます。
本書では過去に対して、やや感傷に過ぎる面があるものの、文明などに対しての歴史的側面を
収奪される側に立って見ることで自身の立ち位置と世間との対置から展開される考察はやはり
秀逸です。
また、既に他界したジャック・マイヨールや星野道夫などを語る項では、彼らとの交流と
達成された偉業を確認し、過ぎた時間を勘案して彼らの死を再定義する姿勢は、翻って
私たちに何を糧として生きていくか、と問いかけているような気もします。
対 池澤夏樹さんな一冊だと思います。
★★★★★
風神帖、あとがきに記してありましたが、もちろんこの次に出る雷神帖、そして、この対の二冊の間に入るであろう長編小説を愉しみにしながら、とりあえず著者の、風神帖を手にして、一晩で読んでしまった後の読了感に関して、ここ数日どうだろうかと考えてみたのですが、私は小難しい事は苦手なので云えないけれども、『(自分)対 池澤夏樹さん』、だなと漠然と思っていたのですが、やはりそうだと今も思っています。
読んで暫く経ってからも、この気持ちが変っていない。氏が自身を振り返って、また私ですら全ての作品を網羅しきれていないので、ここに収められている話の中には、良く知っているものもあり、愛して止まない作品もあり、静かな大地を核にあたってのエピソード、また小説家の父、詩人の母の事、彼の思想、書評、交流のあった方、訪れた地も住まわれた地も、実に多種多様なエッセーが織り込まれていて、それを、読者の其々がどう、読みながら思うのか?池澤さんの言葉に耳を傾けるかのように愉しめる一冊です。池澤さんが自分に話してくれているように、頷きながらもあっという間に読み終えてしまいました。