雪明りの詩篇
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雪明りをよく知り、永久に其処を辿るあの人々に、之等の詩篇を捧げるという献辞がある。
雪あかりの人
雪の降る夜毎に ひとり私を訪ねて来る人がある。 夜更け 私は睡つてゐて知らないけれども 街ぢうに吹雪が吹きすさみ 家並が雪にうづまるときも その人は うすい下駄をはき…
凍てついた夜
猫が鳴いてゐる。雪道を子供が泣きながら歩いて行つた。星が空いつぱいにきらついた。雪は凍てついてた。隣の嫁は産のあとが悪くて 顔をはらしてふせつてゐた。…
吹雪の街を
歩いて来たよ 吹雪の街を。…あゝ譬へよもなく慕はしかつた 十九の年に見た乙女。 あゝ吹雪はまつ毛の涙となる。 私いつまでも覚えて居るのに。 十九の年に見た乙女のまなざしを 私はこうしていつまでも忘れずに居るのに。
著者伊藤整の故郷は、小樽市の近く旧塩谷村である。冬は11月から4月まで雪が2メートルも積もり、半年は雪に覆われている。この深く研ぎ澄まされた感覚から生まれて、みずみずしいこの詩集のタイトルも、その象徴的な色合いを示している。