自分の良い部分をぞんぶんに伸ばした人。助平な男。
★★★☆☆
小学校もろくにいかず、周囲からダメ人間だと思われた渥美が成功したのはなぜか。それは
天性の話し上手の才能を徹底的にみがいたからだ。渥美は得意な分野で勝負したのである。
渥美がたいへんな読書家であったのは興味深い。テレビの仕事をやり始めた頃、幼なじみの親友が渥美のアパートに、本が大量にあるのを見て驚く。週刊誌のたぐいはひとつもなく、
ほとんどが哲学書、随筆の部類だった。使いっ走りの少年には、本屋にいかせて、一度に
7〜8冊の新刊本を買い込ませたほどの読書家だったという。
ある女優が「渥美ちゃんの日本語はきれい。渥美ちゃんは心の二枚目だわ」と言ったそうだが、彼の日本語は読書によって磨かれたのだろう。
船井総研の船井幸夫氏は「すぐれた経営者は例外なくたいへんな読書家です」と語っている
が、渥美も優れた経営者といえると思う。
彼の女性観は興味深い。20も年下の女性と結婚しておきながら、
「結婚はたいへん、ひとりがいい」などと勝手なことを言っている。彼によると女性はいっしょに住むより、ちょっと離れて見ているほうがいいという。男の性(さが)として、やはり女性を裏切ることになるからつらい、と語った。母親と40年過ごして、どんなにがんばっても
女性と理解しあえない部分がある、と言った。
こういうところは私(40代男性)の気持ちと共鳴するところがあって、私は渥美にたいへん親近感を感じるのである。
また、妻帯者の身でありながら、ストリップ劇場に足を運んで一番前の「かぶりつき」に
陣取り、ストリップ嬢とことばを交わして楽しんでいる渥美に、私は男としてますます
共感してしまう。男とは、女性から見たらとても浮気性で信用のおけない生き物なのである。
渥美はそれがよくわかっていた。家族を持ちながらも、アパートで一人暮らしを続け、
ひとりでいることの楽しさを大切にした。
ここらのストーリーは、結婚相手が見つからなくて長く独身を続けている世の男性を
大いに励まし、元気づけるのではなかろうか。
この本は渥美を外から眺めて描いたものなので、渥美の心の中をうかがい知るのは難しい。
渥美が出世街道を歩む中での、苦悩、迷いがもっと書かれていたらよかった、と思うので
星3つ。