素人向けに書かれているが実は難しい中央銀行の話。
★★★★☆
大恐慌研究に学者人生を捧げてきたベン・バーナンキ氏がFRB議長に就任し、何の運命でか大恐慌以来の金融危機に対処することになってしまった、さて、彼は「その時」どう行動したのか、という本。ご本人に取材して書き上げられている。
冒頭FRB設立の歴史に触れているが、ほとんどはFOMCの様子が中心。FOMCの中心人物たちを「四銃士」と命名したり、バーナンキ氏の即断即決をヒロイックに描いて(そして実際にそれはヒロイックだった可能性はある)素人の興味をキープしようという努力はひしひしと感じるのだが、投資銀行の重鎮たち相手に賑々しくやっていたのは財務長官のポールソン氏と当時のNY連銀総裁のティモシー・ガイトナー氏の方で、バーナンキ氏側の話は読み物としてドラマチックだったりアクションがある訳ではない。政策金利決定の話なので業界関係者以外には実はピンと来ない話でもある。私もピンと来なかった。公定歩合とFF金利の違いは表面的にはボンヤリと把握してはいるが(多分)、その示唆するところは生々しくは分からないし。この時期に出前モンを食べながら夜中までオフィスにいてFOMCの発表を待っていた、というような方々には感慨深く読める一冊ではあるかもしれない。
取り敢えず素人の感慨は、「中央銀行って超法規的に(←厳密にそうかは知らないが)ここまで出来ちゃうんだなー」とか「投資銀行はSECの管轄のはずなのにSECの影もカタチもないのがスゴイなー」だったりする。AIGの実態を知ってFRB関係者が卒倒せんばかりになり、バーナンキが「これほど腹の立ったことはない」と回顧するところは興味深かった。超巨大企業放し飼いの図、というのか。トリビアとしては、FRBが日銀との差別化を模索して「quantitative easing」を「qualitative easing」とか「credit easing」とか命名し直そうとして一般語に出来なかった、というはちょっとおかしかった。「ベン・バーナンキがヘリコプターに乗ってケチャップを買いに…」とやや不埒な心構えで読み出したのだが、「中央銀行」というミステリアスな権力機関を前に不可思議な気分で読み終わることになった。