ミレニアムの前には、魅力的な――そして、非現実的な――サクセス・ストーリーが続々と生まれた。とりわけ鮮烈だった例として挙げられるのは、このウェールズ人ソプラノ歌手のジャンルを超えた意外な大成功だ。デビュー当時12歳だった彼女は、このコンサート・ビデオ（PBSで放送され好評を博した特別番組をもとにしている）においても、まだあどけなさを残している。“ティーン・ポップ”がMTVやラジオを席巻する時代にあって、シャルロット・チャーチは異色の存在だ。ウェールズ、アイルランドの伝統的な世俗歌曲や、信仰心にあふれた聖歌を中心とする、心休まる演奏曲目。全体的に静かで、クラシカルな味わいを持つメロディー。これらは、オルタナティヴ・ミュージックという言葉にまったく新しい意味をもたらした。
   そんなチャーチの魅力は、見方を変えれば、微妙なバランスの上に成り立っているとも言える。問答無用に美しい音楽性と、曲の合い間に飛び出す、作り物でない少女っぽさのせめぎ合いが絶妙なのだ。こういった資質は、セクシーさ、どぎつさを売り物にしたポップ・カルチャーの対極にあるもので、昨今では滅多にお目にかかれない。チャーチの先輩にあたるブレンダ・リー、タニヤ・タッカー、リアン・ライムスらは、訓練の結果、年齢に見合わぬ“円熟味”を発揮してきたというのに、何というギャップだろう。考えてみれば、チャーチの紋切り型すれすれの初々しさは、戦略的な時代錯誤の産物なのかもしれない。しかし、少なくとも一服の清涼剤として機能しているのは確かだ。ブリトニー・スピアーズの支離滅裂な発言や悪ふざけを忘れさせてくれるのだから。
   ディレクターのデヴィッド・マレットは、今や大作ミュージック・ビデオのセシル・B・デミルと言えそうな巨匠であり、PBSの募金特番を手がけてきたことでも知られる人物。本作では、確かな技術的裁量と万人受けのする感傷性が見事に調和した演出ぶりを見せている。まず、コンサート会場となったブリクストン・アカデミーの飾り付けが見もの。ステンドグラスを模した窓や炎の揺らめくキャンドルを配し、優美なレーザー光線を使ってチャーチの姿を逆光の中に浮かび上がらせるという凝りようである。これでこそ天使の存在を感じられるというものだ。ちょっと意地悪な目で見てみると、陰にはアンドリュー・ロイド・ウェーバーの存在も感じられるし（プログラムの目玉となる「ピエ・イエズ」）、「ダニー・ボーイ」や「マイ・レイガン・ラヴ」などの定番曲を含む魅力的なケルト音楽が抜け目なく盛り込まれている点にも気づかされる。今のところ、スカラ座で『トスカ』を歌いたいという夢に、この若きスターの手が届くかどうかは分からない。しかし、程よい叙情性なら、すでにチャーチの手が届くところにある。これだけでも大したものではないか。（Sam Sutherland, Amazon.com）