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★★★★★
「西の果ての物語」のシリーズ第2作。前作は北の高地の魔法使いの部族の話だったのが、今回は南の港湾商業都市が舞台。読み始めは「これも暗いのか、、?」という印象。なにせ、砂漠から攻め込んできた狂信的な民族が都市を占拠。主人公はレイプされた女性の私生児で、占領下で17歳を迎えます。ところが、すぐにトーンが変化するのです。
征服側が強烈な一神教を護持して、被征服側の宗教を毛嫌いしている描写は米軍のイラク占領を彷彿とさせ、ル=グイン先生の批判精神を垣間見せますし、ライオンを操る女性を従えた高名な詩人がその街にやってくるあたりから、ル=グイン先生にしては結構俗っぽいイメージが続きます。本や読書は悪魔の所業とされて占領軍から禁止されているあたりはブラッドベリの『華氏371度』の世界。地下で抵抗運動を組織するリーダーが詩人に要請を行う姿も、詩を愛でる占領軍の司令官の姿も古典的。かくて物語はぐいぐいと進んでいき、読者を放しません。
もっとも、そこはル=グインです。彼女は「近代ファンタジーは悪を一身に体現した悪役を殺すことで、すべての問題を解決する」とした上で、自分はそのアプローチをとらないと宣言した人です。悪人が一人死んだ程度では物語は解決しません。逆に、占領された者たちと占領した者たちが如何にして困難な和解に至るのかについこそ、ル=グインは書きます。お説教ではない「物語」を紡ぐのです。見上げた作家根性だと思いました。