ルースは、自己啓発本のゴーストライターとして生計をたてているサンフランシスコのキャリアウーマン。母親がどんな人生を歩んできたのか、また本当はどういう人なのか、これまでほとんど考えたこともない。その上母との関係は年々険悪になる一方だった。それでもルースは母の病気の徴候に気づいていた。かつて母を憎んだことに激しい後悔の念を覚えたルースは、翻訳者を雇い、その紙の束の解読を依頼する。そしてこう決心するのだった。
「母の人生について教えてほしいと頼んでみよう。今度だけは自分からお願いしてみよう。そしてじっと母の話に耳を傾けよう。静かに座り、母をせかすことなく、話を聞くことひとつに心を込めて」
ルースが語り手を務める章の間に挟まれた『The Bonesetter's Daughter』の主要部分は、1920年代に北京原人が発見された、中国のへんぴで山深い地域を舞台に展開していく。そのちっぽけな村落では、迷信や伝説がまかりとおっている。ルー・リンはそんな片田舎で、ひどい傷あとのある子守女「大好きなおばちゃん」の厳しいしつけのもと、育てられた。それはどう見ても決して人がうらやむような環境ではなかった。
設定が今までの小説とまるで同じ。中国系アメリカ人女性の主人公とその母親との関係が物語の軸となり、初めは上手く行っていなかった関係が、その母親のアメリカ移住までの並々ならぬ苦労を知った後で母親に対する見方が変わり...。といった感じ。今回はこれに「アルツハイマー」の要素が加わった。「タイム」のブックレビューによると、エイミー・タン自身の母親も「アルツハイマー」となり、(エイミー・タンが)大変な苦労をした後、亡くなったそうだ。
今までの作品と比べるとインパクトが弱かった。エイミー・タンの売りは主人公の母親のアメリカ移住までの壮絶な人生経験の語りの部分だが、今回はそれが弱かった。
でも、随所に上手いな、と感じさせる部分もあった。それが、肝心の過去の「語り」の部分ではなく、初めの部分に集中していたことがこの作品を「もうひとつ」と思ってしまうもう一つの原因だろう。