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The Bonesetter's Daughter

価格: ¥663
カテゴリ: マスマーケット
ブランド: Ballantine Books
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   エイミ・タンの4冊目の小説は、主人公ルース・ヤングが、見事な毛筆による漢字がびっしりと並んだ紙の束を2つ、手にしている場面から始まる。1つの束のタイトルは「私が真実だと思うこと」、もう1つは「私が忘れてはいけないこと」。さて書いたのは誰?それはつい最近アルツハイマー病と診断されたルースの母親、ルー・リンだった。この紙の束は、1916年に中国で生まれたこの高齢の女家長が、記憶力が衰えても絶対にこの世に残しておきたいという一心で、自らの生い立ちや家族の歴史を書き留めた記録なのだ。

   ルースは、自己啓発本のゴーストライターとして生計をたてているサンフランシスコのキャリアウーマン。母親がどんな人生を歩んできたのか、また本当はどういう人なのか、これまでほとんど考えたこともない。その上母との関係は年々険悪になる一方だった。それでもルースは母の病気の徴候に気づいていた。かつて母を憎んだことに激しい後悔の念を覚えたルースは、翻訳者を雇い、その紙の束の解読を依頼する。そしてこう決心するのだった。
 「母の人生について教えてほしいと頼んでみよう。今度だけは自分からお願いしてみよう。そしてじっと母の話に耳を傾けよう。静かに座り、母をせかすことなく、話を聞くことひとつに心を込めて」

   ルースが語り手を務める章の間に挟まれた『The Bonesetter's Daughter』の主要部分は、1920年代に北京原人が発見された、中国のへんぴで山深い地域を舞台に展開していく。そのちっぽけな村落では、迷信や伝説がまかりとおっている。ルー・リンはそんな片田舎で、ひどい傷あとのある子守女「大好きなおばちゃん」の厳しいしつけのもと、育てられた。それはどう見ても決して人がうらやむような環境ではなかった。

    辺りにはすえたような豚のにおいがした。竜の骨を掘り当てる夢に取り憑かれた発掘者たちによって、うす汚く掘り返された大地。穴ぼこだらけの壁、泥まじりの井戸、ほこりにまみれた舗装されていない道路。すれちがう女は老いも若きも皆、個性のない同じ顔をしている。その眠たげな目は、彼女たちのぼんやりとした心をそのまま映す鏡だった。

   しかし、隔絶された田舎暮らしよりもさらに最悪なことがあった。インクの製造をしているルー・リンの一家は、その村の医者と付き合っている限り自分たちは呪われると信じていた。その医者は、人間の骨からこっそりと医薬品を作っていたのだ。果たしてルー・リンと妹のガウ・リンが大きな不幸に見舞われ、ついに一家は中国脱出を決行する。途中、家族の言い争いが至るところで勃発。特に母親同士、娘同士、それに姉妹間のけんかは絶えることがない。前作の『The Joy Luck Club』と同様、エイミ・タンはこの家族同士の言い争いを巧みに生かして、移民した1世とその子どもであるアメリカ生まれの2世の間に存在する、複雑に絡み合った原動力の本質を描こうとしている。
「おどろき」の少ないエイミー・タンの小説はつまらない ★★★☆☆
エイミー・タンの久々の長編小説。主人公は中国系アメリカ人のルース。アメリカ生まれのルースと中国移民の母親では価値観が合わず、ルースは母親のことを快く思っていない。ところが、最近どうも母親の様子がおかしいことに気付き、医者に見せるとアルツハイマーだと告げられる。動揺するルース。そんな中、母親の家から中国語で書かれたある書物を見つける。それは母親が記憶が混乱する前に自分で自分の過去を書き記したものだった――。

設定が今までの小説とまるで同じ。中国系アメリカ人女性の主人公とその母親との関係が物語の軸となり、初めは上手く行っていなかった関係が、その母親のアメリカ移住までの並々ならぬ苦労を知った後で母親に対する見方が変わり...。といった感じ。今回はこれに「アルツハイマー」の要素が加わった。「タイム」のブックレビューによると、エイミー・タン自身の母親も「アルツハイマー」となり、(エイミー・タンが)大変な苦労をした後、亡くなったそうだ。
今までの作品と比べるとインパクトが弱かった。エイミー・タンの売りは主人公の母親のアメリカ移住までの壮絶な人生経験の語りの部分だが、今回はそれが弱かった。

でも、随所に上手いな、と感じさせる部分もあった。それが、肝心の過去の「語り」の部分ではなく、初めの部分に集中していたことがこの作品を「もうひとつ」と思ってしまうもう一つの原因だろう。

自分探しの作業 ★★★★☆
タンの作品の普遍的なテーマともいえる移民世代の母と移民二世の娘との葛藤が、本作でも筆を尽くして描かれている。主人公ルースはいまだに英語をうまく話さない母との関係を苦々しく思いながら、一定の距離をおくことによって関係を保っている。その母がアルツハイマーの症状を見せたとき、ふたりの関係に変化が訪れる。母の人生をなぞり、その姓を探り出す作業は、ルース自身の人生の出発点を定めることになる。
女性ならばその度合いに差こそあれ、誰でもが感じたことのある痛みを、タンは真正面から読者にぶつけてくる。彼女の作品を読むと感じるある種の居心地の悪さは、自分と母親との関係を映す鏡のようなものなのかもしれない。