元大蔵省財務官であった著者が、通貨当局の最前線で経験した実務と、プリンストン大学での教鞭生活を通じて得たアカデミックな分析を織り交ぜて、21世紀初頭の為替問題と日本のとるべき進路について体系的に書いた本である。本書は、2000年6月の時点で出版されたものに、その後のアメリカでのテロや、日本、中国のトピックを加えて、新装・増補されている。
著者によると、この1年間の世界経済の激変により為替問題には以下の3点がある。
- 円が世界の為替市場の主役の座を降りつつあると市場で評価されてきている
- 大幅な経常収支赤字とドル高の組み合わせ持続可能性には疑問が出てきている
- 現在の中国経済には1960年代末以降の日本と相通じる勢いがあるが、かつて円が受けたプレッシャーは人民元にはかかってきにくい
本文では、円高の日本経済への功罪、為替のサービス取引の特質、為替問題における通貨当局の役割の3つの切り口から日本の為替問題が検証されている。具体的な内容については第1章では円高と日本経済を取り上げ、第2章は為替市場のABCと題して世界の中の東京市場が解説されている。第3章は固定か変動かと題して為替決定要因の変貌を述べ、第4章は市場介入の有効性を考えると題して通貨当局の介入の役割が解説されている。第5章は為替変動への抵抗力、第6章は日本の進路と題して、日本のとるべき進路について書かれている。
本書はさまざまな統計データを使用して、ファンダメンタルズの部分で実務およびアカデミック両方のアプローチから述べられた、まさに「為替」に絞った内容の書として、広く学生、ビジネスパーソン、金融実務家にすすめたい。(木村昭二)