現代の自然科学上の常識では、その実在などは、とうてい承認できないものなのに、かぞえきれないほど多くの日本人が、肉親や知人、あるいはまったくの赤の他人の幻を、こんなにもたびたび目撃したり、その怪音を耳にしたり、その声をまざまざと聞いたりするのは、いったいなぜなのだろう。
　そのすべてが錯覚、幻聴だったとわかったと仮定しても、ではなぜ一千年以上もの長いあいだ、同じような幻視、幻覚を経験しつづけているのかという疑問、そうした何かの見あやまりには、どんな類型が認められ、それは社会環境だとか時代時代によって、どのように変遷して今日にいたったかなどの問題は、まだいっこうに解明されていないようである。
　ともかく、こんな幻をじっさいに見た、こんな異常な死の報せを経験した、こんな人魂を目撃したと、嘘をつくとも思えぬ知人隣人が真顔で語る話は、あまりにも多い。
　本書は、民俗学的視点からまとめられた、日本初の「幽霊体験資料集」。今回は「魂の寄集地編」