これらを一気に解決する手段として、著者が提案するのが水素燃料である。水素は地球温暖化を抑制できるうえ、化石燃料のように偏在せず、発電施設が簡便であることから、インターネットのように分散型かつ双方向的なエネルギー源になりうる。エネルギーの民主化が進めば、地政学に基づく中央集約型の国家ではなく、地球本来の生態系の営みを反映するコミュニティが実現するというのが著者のヴィジョンだ。
科学的知識をアナロジーに利用する点や、あまりに理想主義的なヴィジョンはともかく、豊富なデータに基づく文明批評は説得力があり、面白い。最も興味深いのはやはり化石燃料に依存する危機についてだろう。「水素エコノミーはもう手の届くところまできている。それがどれだけ早く実現するかは、私たちがどこまで本気で石油などの化石燃料からの脱却を図るかにかかっている」。著者の言うとおり、化石燃料からの脱却は人類の急務。現代社会が直面する最大の危機とその解決策を明快に示す野心作だ。(齋藤聡海)