東山七条に位置する智積院の魅力の全てを1冊に
★★★★☆
付近には三十三間堂、妙法院、京都国立博物館、京都女子大学などがあり、観光地でありながら落ち着いた風情が漂う一角です。
その中でも智積院は、今もなお大きな寺域を占めている大寺院です。智積院の歴史でも触れられていますが、1869年に爆発炎上したこともあり、金堂は昭和50年の再建です。明王堂も江戸時代のものですが、なんといっても智積院には、長谷川等伯やその子久蔵などの長谷川一門が描いた絢爛豪華な障壁画が有名です。本文の34ページにある国宝の「松に秋草図」、「桜図「楓図」他、多数の国宝、重文は見事でした。
京都を撮り続けてきたカメラマン・水野克比古ほかのカラー写真でその智積院の魅力が写しだされています。多くの立派な寺院がある京都ですが、この智積院もまた素敵な寺院ですから、本書の出版は意味のあることです。
真言宗智山派管長の阿部龍文師の「現代へのメッセージ 十善の大いなる道」は格調の高いものでした。村磯栄俊師の「智積院の歴史」、高名な歴史学者で京都市美術館長・村井康彦氏の「仏教系大学の源流 智積院の学寮」、京都に関する多くの書籍を残している名古屋外国語大学教授・蔵田敏明氏の「智積院文学散歩」、美術史家の岡田秀之氏の「長谷川等伯の挑戦」、日文研の白幡洋三郎氏の「智積院の庭園」、赤尾栄慶氏の「智積院の文化財」と読み応え十分の解説が並びます。
ただ、有名な横尾忠則氏の「巻頭エッセイ 剥落の中に発見した等伯の近代性」は、期待が勝ちすぎたのでしょうか、興味のわかない文章でした。この人選はいかがだったのでしょうか。