あまりに非現実的な話に聞こえても、どうかうんざりしないでほしい。というのも本書は、どうでもいいような指示を書き連ね、読者を「よりよい」人間に改革しようとする単なる自己改善の本ではないからだ。むしろ本書に集められたイラストやアドバイスは、読者の人生観をまるごと変える道しるべとなり、さらにその過程において新しい可能性の範囲を広げてくれる1冊なのだ。
たとえば「優(Aレベルの評点)をつける」という実習を例に考えてみよう。対象はあなた自身でもいいし、ほかの人でもいい。この実習は、その人の行動が標準以上か以下かを評価するためのものではない。「一番仕事をしていなさそうな人が、実はそのグループに最も貢献するメンバーとなり得る」可能性があることに気づいてあげ、そういう人たちの、あきらめたような部分にではなく「情熱」に働きかけるための実習なのだ。つまり、情熱を眠らせている人たちとのはたらきかけ合いの可能性を模索し、両者間の力の不均衡をなくそうと努力することで、結果的にチームの団結が強まるというわけだ。
もう1つ、「ゲーム盤になる」という実習を例にとってみよう。これは、自分のことを何らかの役割を担ったゲームの「コマ」、もしくは戦略上不可欠な人物と考えることはやめて、ゲーム全体の「骨組み」であると考える実習だ。そうすると、責任を押しつけたり支配力を得てもまったくの無駄になるため、できるだけ有効な協力関係を結ぶための手段となるよう努力することが可能になってくる。
このように、本書は、人生にも仕事にもあてはまる相互作用の例をふんだんに織り込みながら、多面性のある複雑な知覚、認識方法を、読みやすく実際に利用しやすい形式で教えてくれる1冊だ。音楽と絵画(同様に、それぞれファミリー・セラピストとエグゼクティブ・セミナーの講師も務める)というまったく異質な世界の2人の著者がえりすぐってまとめた体験だけに、本書に登場するさまざまな実例は読者の目や耳に生き生きと訴えかけてくる。また著者は、グループが置かれた状況とそのグループ内の人間関係との関連性を十分に掘り下げ、退屈なケーススタディーも一切用いていない。入りくんだ人間感情を理解する力とそれを手に入れたいと強く願う気持ちこそ、読者の最大の関心事であるという視点に立った本書は、すべての門戸を開く考え方、「可能性」を報酬として手に入れることができる、価値ある指南書だ。
「ある男がピカソに出会い、なぜ本物と同じように人物を描かないのかと
たずねた。ピカソは「それはどういう意味か」と聞き返した。男は
財布を開け、妻の写真を取り出して「妻です」と言うと、ピカソは
「ずいぶんと小さくて平らですね」
世の中全部作りもの、という発想を表すエピソードである。
ビジネスマン、カウンセラー、教師…いろんな立場の方にもぜひ
読んでおいてほしい本です。
好きな話は『臨終の父が残した最後のことば』
「ウチの畑に膨大な財産が隠されている...」その言葉を信じて
4人の息子は葬儀の翌日から畑のあちこちを掘り起こしては探しまわる
ことになる。しかし、くまなく熱心に堀り続けたもののついに何ひとつ
発見することは出来なかった。がっかりして畑を去る4人の息子。
果たして父の残した言葉はウソだったのだろうか...。