ピクチャレスクとロマン主義の先駆
★★★☆☆
本書ではトムソンの代表的詩『四季』と、最後の作品『無為城』が訳出されている。トムソンは1700年にスコットランドで生まれロンドンで活躍し、1748年に没した詩人であるが、まさに彼が生きた時代はピクチャレスクや風景式庭園が興隆した時代に重なる。後のロマン派にも影響を与えたとされ、詩の世界で画家プッサンやクロード・ロランが描いた風景画を描写したとされる。実際に詩の中では当代きっての風景式庭園が描写され、その描写は絢爛豪華で美しい。また、ニュートンへの言及等科学への関心や、イギリスの海上貿易等の時事問題にもふれており、同時代の現象をみるには興味深い。エディンバラ大学で神学を専攻したことから、ホメロスやウェルギリウスなど古代ギリシア、ローマの詩人に多大な影響を受けながらも、その根底に流れているのはまぎれもないキリスト教的愛国心であり、『無為城』は伝統的な騎士物語の形態をとった教訓詩である。
難点はサミュエル・ジョンソン博士が指摘しているように「理路整然としていない」点と、読んでいて冗長で散漫な部分が多いことである。さらに、ひとつひとつの訳語は美しいが、訳者のいう「詩的音楽性」が伝わってこないことが残念である。