「乙女」のための随筆集
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片山廣子は、大正期の歌人。松村みね子の筆名で、J.M.シングやロード・ダンセイニ、フィオナ・マクラウド等、多数のケルト圏の文学を翻訳し、日本に紹介したひとでもあります。
歌人としては歌集『翡翠(かわせみ)』『野に住みて』などを発表。
暮しの手帖社より刊行された随筆集『燈火節』は、1955年に、第3回日本エッセイスト・クラブ賞を受けています。
ながらく絶版だった名随筆『燈火節』は、月曜社から大部の集成本『燈火節―随筆+小説集』として復刻されましたが、本書は初版本のハンディさに立ち返ったソフトカバーの廉価版。しかも底本どおりの旧字旧仮名遣いが採用されています。
ひそかに片山廣子/松村みね子の文章を愛する読者にとって、またいまだ彼女の文章に触れたことのない読者にとって、何と嬉しい知らせでしょう。
片山廣子/松村みね子を説明する言葉はいくつもあります。ニューヨーク領事をつとめた父をもち、ミッション系の女学校に通った深窓の令嬢。佐佐木信綱に師事した大正期の麗歌人。幻視の魂をもったアイルランド文学の紹介者。 あの芥川龍之介の最後の恋の相手と噂され、また堀辰雄『聖家族』のモデルとも言われる、孤高の才媛…。
そんな彼女が、夫や子どもの死、そして敗戦を乗り越え、晩年に至って著した生涯唯一の随筆集『燈火節』。
この一冊は、あえて言わせてもらうなら、まさに昨今はやり(?)の、「ガーリィ」な、「乙女」のための本ではないかと思うのです。
古書の愛好家には知られた名随筆かもしれませんが、こんなに美しい随筆集が、たくさんの「乙女」に知られずにいるのはもったいない!
本書の刊行により、より多くの読者が、片山廣子/松村みね子の文章に出会えることを願います。