標的はナイキ、シェル、ギャップ、スターバックスといった世界的に有名な多国籍企業のブランドばかり。本書はこうした企業が攻撃されるにいたった理由を3つの点から論じている。1つ目は、ブランド拡大戦略を掲げる企業のマーケティングに、文化や教育が取り込まれた、というもの。都市空間、メディア、音楽、スポーツのほか、学校や政治的表現の場も企業の進出によって歪められたと指摘する。2つ目は、企業が進める合併やシナジーにより選択肢が奪われた、というもの。意に添わないものを排除する企業検閲の存在も伝えている。3つ目は、外部委託、パート労働などの雇用形態にシフトする企業により仕事が奪われた、というもの。企業がアジアにもつ「搾取工場」の実態もここで暴かれている。
「そして反撃は始まった」とし、さまざまな形の反企業運動を取り上げている。なかでも著者は、インターネットを駆使する若い世代の活動家に注目。企業のマーケティングを逆手にとるような、彼らの洗練された方法を積極的に描いていく。シアトルでの抗議行動は氷山の一角、企業のグローバル化とともに反抗勢力も世界的にネットワークを広げている…。こうした世界規模の新しい現実が、見事に活写されている。
著者は1970年生まれのジャーナリスト。本書では自身の活動家としての側面も隠していない。独自に取材・調査したという箇所の説得力はやや弱く感じられるが、一方で、大企業のマーケティングを読み解く鮮やかさが印象に残る。世界的な反企業運動の全貌を初めてとらえたという点で、価値ある1冊であることは間違いない。(棚上 勉)