作者の窪島さんはこの戦没学生の遺族を全国に訪ね、彼らの残した数少ない作品を探し出して鑑賞し、そして遺族の無念の声、悲しみの声をつぶさに聞き、文章にしました。 それだけではありません。窪島さんは長野県に自力で立派な美術館を新設し、遺族の方々にお願いし、その遺された作品をお借りして展示しています。これが『無言館』です。
窪島さんは決してお金持ちではありません。戦争中に生まれ,今の人たちには想像も出来ない貧しい生活を経験しました。またこの人の出生には重大な秘密が隠されています。その数奇な運命と、美術館を持つに至った努力の半生、そして戦没学生への遺族の想いが綯い交ぜになって、この作品を感動的で、一方少しミステリアスな作品にしています。氏の実の父親は果たして誰でしょう? 私もこの窪島氏とほとんど同じ頃に生まれました。わずかですが戦争を知っている世代として、また戦後の同時代を共有した者として、氏の作品に深い共感を覚えるのです。平和な日本しか知らない世代の人々に悲惨な戦争の現実を知ってもらうため、ぜひこの本を読んでもらいたいと思い、この拙いブックレビューを書きました。