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はじまらない物語 [短編小説]

価格: ¥0
カテゴリ: Kindle版
ブランド: 焚書刊行会
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■あらすじ

主人公の少年・高田新次は、部員一人顧問一人という田舎の中学校の文芸部長。
卒業制作の郷土史をEPUBで制作するうちに、小説を書きはじめた新次は、その小説をKindle Paperwhiteに送信するようになるが、ある日、島に訪れた少女・高田舞衣のKindleと取り違えられ、その内容を意図せず他者に読まれてしまう……。

第一章 「廃部の危機」
第二章 「ドーン・オブ・ザ・イーブック」
第三章 「丸尾聖人伝」
第4章 「スピーク・ライク・ア・チャイルド」

■作品紹介(ヘリベマルヲ)

(この作品紹介は、2013年2月14日発行の『ダイレクト文藝マガジン 第五号』に掲載されたものです)

 代々木犬助さんのことは本誌の読者ならご存知かと思う。杓子定規な判定基準でアダルト扱いされるというハンデにもかかわらず、ヒットを記録した成長小説、『残念な聖戦』の著者である。その彼が、同じくダイレクト出版の人気作家、山田佳江さんの連載小説『電子の灯す物語』の、いわゆるスピンオフを手がけるというのだからおもしろい。

 お二人の作風はまったく異なる。山田さんの小説は純文学の筆力に裏打ちされたエンターテインメントであり、空想的でありながらツボを押さえて、破綻することがない。実際に読まれた方なら同意していただけるかと思うが、いい小説のお手本のような書き方をされるのである。いっぽう代々木さんは、芸達者のコメディアンによる喜劇のように読者を楽しませ、ぐいぐいと物語へ引き込む。ふと気がつくと読者は、思いもよらぬ結末に胸を打たれている……といった作風だ。『残念な聖戦』や短編「それが僕らを別つとしても」はまさにそうした小説であり、公式ブログ「ノベラブルブロガブルシステムズ」において連載中の新作長編『アニマル・ズ』もまた、そのような傑作となるはずである。

 共通点もある。おそらくどちらも執筆前に緻密なプロットを構築するよりは、書きながら物語を膨らませるタイプだ。そして二人とも藤井太洋さんに私淑している。個人によるダイレクト出版でブレイクし、現在は商業出版でも活躍する新進気鋭のSF作家――などといった解説はもはや必要なかろう。彼と山田さん、代々木さんの関係は、手塚治虫とトキワ荘メンバーを思わせる。そういえば山田さんの小説の、どことなく品のある優しさは藤子・F・不二雄の描く少女のようだし、代々木さんの力強いリーダビリティは石ノ森章太郎が描くヒーローのようだ。

 じつは藤井太洋さんは、このスピンオフ小説の成立にも大きな影響を与えている。原型となった掌編が存在するのだ。
 きっかけは『POSTMAN!!』の長谷川圭佑さんのひと言だった。山田さんの草稿を編集部で囲み、ああだこうだ勝手な感想をいいあっていたときのことである。
「作中作を、読者としてはもっと堪能したいかな」
 それに対して『demi』の犬子蓮木さんが、「山田さんじゃない誰かが最初から最後まで書いたらおもしろそう」と、ふと呟かれたのである。
「そんなナイスアイデアを出したら」と代々木さん。「忌川さんが本当に書いてしまいそうです!」
 当時、忌川編集長はたった一週間で三万字の原稿を執筆するという、尋常でない働きぶりを見せていた。倒れるのではないかと心配されていたのである。
 山田さんも乗り気だった。「忌川さんが書いてくれるなら、シンジの作中作、全部差し替えでいいです。こっちでつじつま合わせます」
「いや、むしろ僕が書きたい。山田さんの原稿にあわせます」
 代々木さんはどうやら、山田さんが羨ましかったようだ。Kindleストアのベストセラーに名を連ねているとはいえ、彼らはあくまで自主制作、インディーズの作家である。仲間からあれこれ批評されたり、プロ作家から直々に助言をもらう機会など、そうはない。見るからに張り切る代々木さんに、藤井さんは「みんな書きたいんじゃないでしょうか」と微笑された。そうして四百字詰め換算で八枚ほどの掌編を、さらさらっとお書きになったのである。
 この「事件」が代々木さんの創作意欲に、さらなる刺激を与えたのはいうまでもない。この掌編をもとにして想像力を膨らませたのが、これから読者の皆さんにお目にかける連載小説、『はじまらない物語』である。題は藤井太洋さんがフェイバリットとして挙げる『はてしない物語』へのオマージュであろう。『電子の灯す物語』はこのようにして、魔法のような化学反応を惹き起こしたのである。

 連載の第一回で代々木さんは、彼独自の喜劇的な文体を封印し、新たな境地を拓こうとする。山田さん、藤井さんの世界を継いで抑制された語りをつづけるのか、それとも――? 作家としてわれわれ読者の前に登場した時点から、彼は完成されていた。その枠を彼はいま、あえて自ら毀そうとしているのではないか。作家としての可能性を広げるために。
 作家・代々木犬助は今後さらに化ける。この連載はその第一歩となるだろう。

■姉妹作品
電子の灯す物語 http://www.amazon.co.jp/dp/B00CCT23IO/