本書は、そんなタクシー運転手の記憶力を脳科学的に解析したマグワイヤの研究の紹介から始まる。その興味深い研究の結果、タクシー運転手の脳のある部分が一般の人よりも大きく、しかもそれはベテランの運転手であるほど大きいという驚くべきことがわかった。
よく年をとると記憶力が衰えるといわれるが、この研究は成人した後であっても鍛えれば記憶力がよくなることを示している。しかし、そうは言っても成人して年齢を重ねるごとに記憶力が落ちていくのを感じるわけだが、脳科学は脳の構造にあわせた3つの「記憶の仕方」があることを教えてくれている。それは(1)何度も失敗を繰り返して覚える、(2)きちんと手順を踏んで覚える(易しいものから難しいものへ)、(3)まずは大きく捉え、最初から細部にこだわらない、である。年齢と共に「丸暗記」する能力は衰えていくが、この方法を用いれば記憶力は鍛えられる。
本書は記憶に関する脳科学の興味深い研究を、歴史に沿ってわかりやすく紹介している。また「テストの直前に詰め込み勉強をするなら徹夜するよりも早起きして勉強した方が良い」「テストの前に風邪薬を飲むと記憶していたものが思いだしにくくなる」など、記憶力に関するアドバイスもかなり具体的だ。
文章も読みやすく、必要な生化学や脳科学の基礎知識もわかりやすく解説してあり、記憶のみならず広く脳科学に興味を持っている人にお勧めできる。(別役 匝)