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現代短歌そのこころみ (集英社文庫 せ 3-5)

価格: ¥650
カテゴリ: 文庫
ブランド: 集英社
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素人にも分かる短歌史 ★★★★☆
 即物的で乾いた気配の俳句の方が読んで面白く、一方の短歌はどこかべたついていて肌に合わない。それに、31字より17字の方が読みやすく、かつ覚えやすいはずで――。そんなふうに考えていた評者にとり、本書の簡潔・明快にして、抽象に流れない叙述は馴染みやすく、短歌に対する妙な偏見・誤解を解きほぐすに十分な説得力が備わっていた、と思う。特に、歌人の生涯と作品の「読み方」をそれぞれの時代背景を丁寧に押さえたうえで報告しようと試みている点、素人の読者には至って親切な手法、と読み取れた。

 斎藤茂吉と折口信夫が1953年に死去し、54年に寺山修司と中城ふみ子が登場して「歌壇」は変貌した、という戦後短歌のエポックの描出。宮柊二、渡辺直己らの戦争体験と、60年安保に便乗した「自己肯定」を図る短歌のそれとはなしの対比。通俗的正義と女性性に彩られた「朝日歌壇」への違和感。無頼の石田比呂志と遊戯の穂村弘の、笑ってしまいたくなるような対照――。話題はいくつものテーマにまたがり、短歌群の引用も適切で、門外漢にこそよく呑み込める上手な「現代短歌」の解題集。短歌一筋みたいな、玄人筋からの評価は想像もつかないが、寺山修司の「マッチ擦る」ぐらいしか覚えていない素人の評者にとっては大変に面白く、興味深い「業界ルポ」といえた。
渋いなあ 現代短歌は 渋いです(字余り) ★★★★★
表題を見てください。「その試み」ではなくて平仮名で「そのこころみ」とある。渋い。読了後、改めて表紙に描かれた夕暮れを進む汽車を見ると「この絵まで短歌している」と思いました。ファーストインプレッションで抱いた渋さは、本文を読み進めるにつれてじわじわと深まっていった。まるで知らなかった短歌の世界。前半で紹介される前衛短歌は「閉じている」と感じて、あまりピンと来なくて、現代短歌とは前衛短歌だとしたら、この先読むのがしんどくなりそうだったが、戦前、戦中ないしは現代の歌会で飛び交う作品は、「開いている(わかりやすい)」ので、吟味されたことばの使い方にまで意識が届き、鑑賞し堪能することができたような気がする。文語体ならではの魅力も覚えた。初めて見る漢字や語句が散見された(それは筆者の文章にも言える)。正確な意味は辞書を引かないとわからないけれど、字面と前後の文脈から類推しながら、日本語の奥深さに思いやる。「サラダ記念日」しか知らない(しかも読んでもいない)私はカウンターカルチャーショックを受けました。追記。高橋俊男の「座右の名文」で斎藤茂吉に親近感を抱いたのであるが、筆者が変わるとガラリと印象が異なる斎藤茂吉の一断面を突きつけられてちょっとショックでした。
戦後短歌史的憂憤 ★★★★☆
単行本を買っていたのに文庫で読んでしまった。積読ばっかりやっているとこういうことになる。
関川夏央はほとんどの著作を読んでいるが、短歌に疎いこともあって後回しにしたのが祟った。

それにしても、関川の筆の冴えは明治や大正、そして昭和の文藝絡みになると見事であるなあ。勿論、最高傑作は『坊ちゃんの時代』の漫画原作であるが、白樺派モノや昭和の文学者群像モノでも読ませる。

本書は茂吉と折口信夫の逝去した1954年をエポックメイキングとして、短歌の歴史が変わったとする認識のもとに展開される。中井英夫が大きく太い軸として存在し、中城ふみ子、寺山修司の誕生がスリリングに語られるところから第1章が始まる。

以下、村木道彦、葛原妙子、宮柊ニ、石原吉郎、村上一郎、穂村弘、齋藤史、木下利玄らが取り上げられる。
就中、葛原妙子という歌人が大いに気になった。この人のことはほとんど知らなかったが、鮮烈な歌を書く人だ。我が敬愛する、否、敬愛を述べるほど理解もしていないが、同郷でもあるゆえに尊敬のまなざしを向けてきた“唯物論”歌人・塚本邦雄への葛原の評言には唸らされた(地の文は関川)。

<戦後日本への悲しみ、いらだち、憂憤をたくみな喩によって表現した塚本作品は、喩法偏重のゆえに「体言の過剰を招」き、「つまり楽音を与ふる用言を失い勝ちである」>

なるほど!! こういう視点を持ったことは当方には全くなかった。「奴隷の韻律」(小野十三郎)を嫌った塚本は、その鮮烈な言語感覚によって(私見ではそれこそ塚本の唯物論者たる所以である)、革命的な歌人であった。
他方で、その言語感覚の実体化ゆえに、後続する春日井建や寺山らの人工的な感興なき、作り物めいた歌の母体ともなったのではないか? こういう見方は実際のところどうなのか、よくわからないが、葛原の塚本評を知った後では、初見で名作と思えた「終夜煌々たれば佃煮工場の貝、積悪のごとく煮つまる」といった塚本の歌も「楽音を与ふる用言を失い勝ち」に見えてくる。

石原吉郎と村上一郎を扱った「戦争は終わらない」も深く胸底に響く一文だ。岡井隆が村上の強い影響を受けていたことなど、当方が知らないだけかもしれないが、印象深い。
新しい発見がない ★★☆☆☆
 著者には、「坊ちゃんの時代」という名作がある。谷口ジローの絵も手伝って、あれで明治文学史を生き生きと感じることができたという人も多い。
 本書では、あの名調子で、寺山が、岡井が、塚本が、岸上が、取り上げられている……のではない。一応、おもしろく読ませるが、歌集や結社誌、同人誌を踏査しての、発見があるわけではなく、彼らについて知識のある人は「いまさら」と思うに違いない。また、基本的にスター主義なので、短歌という文藝の持つ特性――一口にいうと目立たぬ作者たちが参加しての相互作用――はまったく捉えられない。
 スター主義なら、下敷きにされている中井英夫「黒衣短歌史」や、運動史なら、冨士田元彦「無声短歌史」のほうがはるかにおもしろく、なおかつ、オリジナリティに満ちている。
 確かに、中井や冨士田にはなかった、昭和末から平成にかけての作者・作品については触れており、例えば、島田幸典をこれで知った人がいるのは本書の徳であろう。だが、鶯まなみ(=本上まなみ)の愚作をほめそやすに至っては著者の地が出てしまっている。
 付け加えておくと、本書の新聞歌壇批判が、あるヘイトサイトの論拠として取り上げられたのは、まことに残念というしかない。
 結論:関川ファン以外にはおすすめできません。


現代短歌の軌跡 ★★★★☆
短歌の世界にふれてみたいと思ったら,
本屋では昔ながらの短歌入門,歌人の書いた歌論などが手に入る。
しかし,短歌専門の人ではなく,文芸として短歌を見渡す本はなかなか見当たらなかった。
本書は歌人の生きた時代背景と,関川氏自身が感銘を受けであろう歌からなる文芸短歌批評である。
短歌は私性の強いものであるので,
歌人の人間を説明することに大きくページを割く本書のスタイルは,短歌から距離のある読者にとって歌に没入してゆくためのすばらしい道標を与えてくれる。

ただ,引用がはっきりしないため,どこからが関川氏の見解で,どこまでが他の歌論からひいて来たものなのかが明らかではない。
本書は読み物としては非常に面白いのであるが,上記の点で論としては惜しまれる。