20年間を山中で自給自足の生活をした現代のデイビー・クロケット
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作者エリザベス・ギルバートにとって「The Last American Man」の主人公ユースタス・コンウェーは現代のデイビー・クロケットであり、憧れの人物であったに違いない。彼は高校卒業後直ぐに家出をし、アパラチア山中で20年間もテント生活をし、自給自足の自然生活を続けたのだ。現代文明のアメリカにおいてこのような原始生活を実行したのが信じられない。
彼は父親との人間関係がうまくいかず家出したのだが、このような自然生活を体験する中で現代アメリカ社会の疲弊を痛感する。自らが山中に自然のユートピアを建設し、そこで人々に共に自然生活を体験させることで心身を強健にし生きる力を獲得させ、ひ弱で堕落したアメリカを救おうとする。
彼は西部開拓時代の英雄のようにシカ皮の衣服を身に着け、冷静で頑強な容貌をしていて、徒歩でアパラチア山道3500Kmを踏破したり、騎馬で大西洋岸ジョージア州から太平洋岸カリフォルニア州のアメリカ横断を最速の103日間でやってのける。ミシシッピ川をイカダで下ったり、ニューメキシコでナバホ族と一緒に過ごしたりもする。
このように冒険や探検を繰り返し、山中で自給自足の生活をし、動植物に親しみ、自らを「運命の男」と認めて山中に自然のユートピア「カメの島」を開設する生き方に憧れ、素直に感動した。これはまさにアメリカの西部開拓時代の荒々しく男らしい生き方と共通するものがあり、ひ弱な現代人にとって失われた時代へのノスタルジアでもある。