神様と6月の雨
価格: ¥0
“世界はいつもボンヤリとした雨で包まれている”
さえないフリーターの僕のところに、少し不思議な力をもつ女の子リコが突然現れた。ひょんな事から、奇妙な神様探しをすることになった僕とリコの不思議な共同生活。
<媒体掲載>
【KDP最前線】神様知りませんか?「神様と6月の雨」を執筆した”藤沢裕之”さんにインタビュー
http://kindou.info/9245.html
<作品より>
(6 探し物)より
「リコは神様を見たことがあるの?」
「はい。〝見た〟という言葉が正しいのかはわかりませんけど、神様を感じた事があります」
「感じた?」
「そうなんです。もしわたしが、そのとき、神様の事に気がつかなかったら、今ここにわたしは存在していないと思います」
そしてリコは、とても真剣な表情で僕を見つめた。
「それは、どんな体験だったの?」
「難しい質問ですね……。それは、わたしがまだ本当に幼い頃、自分の存在価値がおぼろげになっていた時の話なんです。物心ついた時から、わたしには、大人たちには感じられない〝何か〟を感じることが出来ました。でもそれは、別におかしな事でも、不思議な事でもないのです。例えば、大体の大人の人は雨が激しく降って来ると〝ザーザー降って来た〟なんて言いますけど、決して雨は〝ザーザー〟なんて降らないんです。本当はいつでも雨は、もっと激しい音を鳴らしていたり、もっと包み込むような優しい音を立てていたりするんです。そんな風に、わたしが知っている世界と、周りの大人やわたしの同級生の友達が見ている世界は、明らかに違うものでした」
(10 奇蹟とは)より
すると唐突に、リコが僕に言った。
「瀬尾さん、あのバッターの男の子わかりますか?」
と、リコは土手の下の野球場を指差した。そこでは少年野球チームが野球をやっていて、前のバッターが三振でバッターボックスからベンチに戻り、次の男の子がボックスに向かうところだった。
「ん? わかるよ。どうかしたの?」
「あの子、ホームランを打ちますよ」
リコは嬉しそうに僕に向かってそう言った。
「え? なんで?」
「何か伝わってきたんです。〝やったぞ〟っていうあの子の気持ちが、ここまで先に伝わってきました」
僕が、あんまりその意味が理解できなくて、不思議そうにリコの顔を見ていると、下の野球場で大きな歓声が上がった。振り返ると、その少年の打った打球が大きく伸びていき、グランドギリギリのところまで飛び、隣のサッカー場の手前付近まで転がっていった。それを、外野を守る守備チームの少年が一生懸命に走って追いかけていった。プロの使う球場ではないので、外野のフェンスがあるわけではなく、何処までがグラウンドなのかは、よくわからないが、どう見てもそれはホームランだった
僕は、そのグラウンドでの光景を目の当たりにした後、もう一度リコの方に向き直って、リコの顔を見た。リコはとても楽しそうに笑っていて、僕が見つめていると、少し恥かしそうに、可愛い仕草で眼鏡の位置を直した。
「リコ、すごいね。わかるんだ、そういうの……」
「そうなんです……。これ、神様からもらった力なんです。あのとき以来、すごく強くなったんです」
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2013年2月5日 初版
2013年4月14日 第二版