「見事なトルストイ!!」というわけにはいかないが・・・
★★★★☆
言わずと知れたロシア文学の名作、トルストイの「アンナ・カレーニナ」の簡単英語バージョンです。夫と子供を持つ身のアンナが、若く魅力的な青年ヴロンスキーと出会い、みるみるうちに人生の歯車が狂っていく、という物語。私は日本語で完訳を読んでいるので、100ページ足らずのリーダーズにどうやってあの長編小説をまとめているのか気になって読んでみたのですが、アンナ以外のサイドストーリーを切れるだけ切って、ほぼアンナ一人のストーリーとしてまとめています。トルストイの哲学を感じさせるような描写はさすがにほとんど訳されていませんが、要所要所で原作の筆致をそのまま残すことで、アンナの浮気話も「ただの昼ドラ」にならずに再現できていると思います。また、サイドストーリーを切っている分、アンナ一人の行動が浮き立つようになり、一度完訳を読んでいる私も、「アンナだけについて書くとこういう流れだったのか」と改めて確認したようなかんじでした(笑)。この本を読んで「トルストイを読んだ!」ということにはならないでしょうが、なかなか楽しめる一冊です。
レベル6(英検準1級)とのことですが、使っている単語はそれほど難しくないので、英検2級くらいの力があれば結構読んでいけるんではないでしょうか。内容がスキャンダラスなだけに、英語ということを忘れてハラハラしながら読めると思います。
個人的には、ロシア文学を英語で読む、なんていう離れ業は今まで思いつきもしなかったのですが、完訳アンナ・カレーニナを英語で読んでみるのも良いかもしれない、と思わぬ新境地を開いてくれた一冊ではありました。ただ、ロシア人の名前を英語で書かれると、Scherbatskyとか、どーやって発音するんだかわからない→名前が覚えにくい、という難点はあります(笑)。この本ではロシア人の長い名前のうちの父姓は省いて書いていたり、そのへんはわりと良心的です。