昭和初期に活躍した小説家、堀辰雄の短編小説。初出は1937（昭和12）年の「改造」。平安文学の「蜻蛉日記」を翻訳（逐語訳ではない）したもので、藤原道綱母の、夫を巡っての逡巡、愛憎が描かれ、女性の心の綾なるところを小説化している。近代的知性や感覚で、愛や死や生をめぐる問題を作品化している。「蜻蛉日記」の上と中に相当する内容で、大筋は一致しているが、最大の違いは短編小説として無駄の無い文章で、過不足なく書いている点である。