しかし、時の流れと共にこのアルバムを何度も聴くうちに私の嗜好は「ダリルのソウルフルな歌唱力をじっくりと堪能できる」それ以前の作品に移っていった。特に哀愁を漂わせる#1・3、ダリル本人の失恋がモチーフで、狂おしいまでに歌い上げられる#5。(#5は80年発表の「モダン・ボイス」からだが・・・。)また、軽やかに流れる#10は一年余り悩んだ末に異性に初めて自分の恋心を告白した達成感(というか脱力感)の中で無意識のうちに頭を駆け巡っていた思い出深い曲。(その一週間後には「ふられた気持」という結果になるのだが・・・苦笑。)
かといって、#6~14も今聴いても全く色褪せを感じることなく聴ける。要は全曲完成度が高く、素晴らしいものばかりなのだ。#15・17・18のライヴ・バージョンもコンディション良し!
フィラデルフィア出身のダリルホールは黒人音楽に対して同化しようとしていた。このへんはギャンブル&ハフとの交流やテンプテーションズとの共演からもわかる。初期はかなりフォーキーなスタンスで演奏していたが、メガヒット街道に硊??入モードに入ってからの彼等のスタンスは=ずばり=ソウル+ポップ+ロック+ニューウエイブの絶妙なブレンドになっていった。このへんは解散したガリバーというバンドでの苦い経験があると思われる=売れないとつぶれるという原則=。
でこのアルバムは彼等にしてみれば『忠実なファンがたくさんいる国』=おいしいマーケット=に対する感謝状=をつけた変則的なアルバム。二人からの日本のユーザーに対して感謝の言葉が挿入されている。
へたな新人をデビューさせるよりも、手堅く儲ける=リスクが少ないから=というレコ会社の姿勢も感じる。というわけで、このアルバムは=黒人音楽の美味しい部分を再構築して白人が聴きやすいようにフォーマット化した彼等の足跡が辿れるそんなアルバム。ダリルホール!は一般ユーザーが楽しめるレベル=ほどほどにださいレベル=フックを味わう=にきちんと楽曲を設定できる巧妙な人物であることがわかる。
10点中9点