鷹宮助教の黒い影
★★★★☆
制度融資詐欺のエピローグ、投資顧問詐欺、詐病詐欺、有名人詐欺のプロローグを収録。この作品を読むと、変な話、詐欺師ってよく色々な制度を勉強しているなあ、と感心してしまう。もしかすると、制度を作った人間や法律家よりよく知っているのではなかろうか。
詐欺師は自分が儲けるためにこういう勉強もがんばるってだますのだろうが、騙される側はなぜ騙されるのだろう?
一番分かりやすい理由は欲だろう。人より儲けられる、という自分にとって理想の未来を信じさせられてしまう心のすきまに詐欺師が付け込んでくるわけだ。投資顧問詐欺なんかもそれで理解できるだろう。しかし、それだけでは制度融資詐欺や詐病詐欺を理解することはできない。
ここで騙されるのは社会保険庁などの公的機関や保険会社だ。これらは公共サービスの向上や利潤の追求をしているかもしれないが、詐欺師に直接的にだまされる担当者だけの得になるように行動する組織ではない。だから、担当者個人の欲に付け込む形で騙すのではなく、担当者自身のお金でないことによる無関心や、制度設計上のすきまに付け込む。
孫子は敵を知り己を知れば危うからずと言ったが、ボクは敵(=詐欺師の努力)を知り、己(=自分の欲や社会制度)を知れているだろうか。どちらかが欠ければ百戦百負することになってしまいかねない。
そういう意味でこの本は、敵の一端を知ることができる本だと思う。