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半日の放浪―高井有一自選短篇集 (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,260
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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無題 ★★★★★
自らの指し示す範囲を明確に意識することのできている文章.問題は,彼の小説の中に現れる人間たちが,常に周囲の人間と一定の距離感を堅持しているように見えることだ.それは,人と距離感をもとうと意識して,そうなっているようなものではない.基本的に,他者のことを理解することはできないのだという,言葉で言えばあまりに簡明になってしまうが,もの凄い断念を彼の小説は,秘めている.それが「北の河」で描かれている母の自死――身近なところにいた人びとの不在,あるいはいつの間にか完全に過ぎ去ってしまった近い過去――に由来するものであることは間違いないように思う.わからないのである.なぜ,そうなってしまったのかは.全面的に頼りにしていた存在が,いつの間にか,理解することの難しい存在に変貌していた.中学生の時の主人公は,そういうことがありうることを理解することはできなかった.母は,その役割を演じているにすぎないのではない.彼の認識は,母を,一人の存在を全面的に理解し尽くすことなどできないのである.母は,疎開先で,その内奥を知ることのできない他者として,いつの間にか彼の目の前に立ち現れていた.過去の記憶(母との親密な愛情にあふれた記憶)と現在の間で,違和感と頼りなさ悲しさだけが迫ってくる.そして,時間は経過し,主人公はおそらく数え切れないほど,母を内面から理解しようとする作業を繰り返したのだが,それでも母には届かない.成長し,小説を物語っている30代の主人公は,かつて気づくことのできなかったものに気づき(気づいたような気がし),それに意味を与えるのだが,そのことによって照らし出される範囲はあまりに小さく,むしろ周囲の闇を,かえって際だたせてしまう.居住まいを正したような高井の文章は,結局のところ,いくら言葉を積み重ねても,理解したい他者には届かないという諦念に由来するものだ.そして,高井の小説の主人公たちは,わかった気になって済ますことをしない.わからないものはわからない,そうしたわからなさを有する他者を,そのようなものとして尊重しようとする.したがって,他者を理解したきになって,自足するスタンスに対して,高井の小説の主人公たちは苛立ちを隠さない.なぜ,わかるのか,他者の心の軌跡を.
この母にして、この息子あり。 ★★★★☆
ちょっと変わった短編集ということになる『半日の放浪―高井有一自選短篇集』です。
何が変わっているのかというと……、芥川賞受賞作が収録されている短編集ならば、それが表題作になるのが普通なのですが。

まあ、芥川賞というのはあくまでも登竜門の賞なので、作家生活における最高傑作とは限りません。表題作になっていないということは『北の河』はあくまでも出発点なのだという位置づけなのでしょう。
しかしながら、やはり『北の河』が作者にとって最も大きな比重を持っている作品ではないでしょうか。

多感な少年時代に経験した、戦争による疎開と、そこでの母の入水自殺。
一度の人生の中でこれ以上重大な経験をすることは、まずありえないでしょう。

母が、かなり特異な人物として描かれているように見えます。平和時の読者の目から見ているからそう見えるのでしょうか。戦争という時代にあっては、重い精神を抱えた母こそが、あるいは真っ当なのかもしれません。