まあ、芥川賞というのはあくまでも登竜門の賞なので、作家生活における最高傑作とは限りません。表題作になっていないということは『北の河』はあくまでも出発点なのだという位置づけなのでしょう。
しかしながら、やはり『北の河』が作者にとって最も大きな比重を持っている作品ではないでしょうか。
多感な少年時代に経験した、戦争による疎開と、そこでの母の入水自殺。
一度の人生の中でこれ以上重大な経験をすることは、まずありえないでしょう。
母が、かなり特異な人物として描かれているように見えます。平和時の読者の目から見ているからそう見えるのでしょうか。戦争という時代にあっては、重い精神を抱えた母こそが、あるいは真っ当なのかもしれません。