アップビートなトラックもあるにはある。たとえば、過激なアレンジを施され、スペシャルズを思わせるきわめて正統的なスタイルのスカに生まれ変わった「Sunny Side of the Street」や、トニー・ベネットとの意外なデュエットで楽しませてくれる「Makin’ Whoopee」、リッキー・リカルド的なチャ・チャ・チャに仕立て上げられたモーリス・ウィリアムス&ザ・ゾディアックスの「Stay」などだ。しかし、アルバムの大部分は落ち着いた物悲しいムードに包まれている。「Unchained Melody」、「Don’t Let Me Be Misunderstood」、そして恐ろしいまでに陰うつな「Walk on By」はセンシティヴなアレンジが見事で、ピアノと繊細なオーケストレーションが緊張感をかもし出している。その効果は奥深いものを感じさせ、耳にこびりついて離れない。まるでローパーが心の奥底からトーリ・エイモスを解き放ったかのような印象を与えるのだ。
ローパーは、「You’ve Really Got a Hold on Me」を泣かせるバラードへと変えてしまうなど、驚くばかりの歌唱力と解釈力を発揮している。全編で輝きを放っている彼女の歌声は、シンプルな仕上がりであるために、よりいっそう強烈な印象を残す。思えば過去の何枚かのアルバムは、オーバープロダクションのために魅力が半減してしまっていた。だが本作のタイトルが示すとおり、ローパーはようやく(At Last)素顔を見せてくれたのである。(Hal Horowitz, Amazon.com)