Y 染色体から見た人類の歴史
★★★★☆
人類の歴史は、DNAに刻まれている。
女性はミトコンドリアDNAで、男性はY染色体で、ルーツを辿れる。
世界的な分布から、人類の移動の歴史も辿れる。
この本は、Y染色体のそれである。
「アダムの呪い」よりは読みやすい。
親切な図が欲しい
★★★★☆
人類の拡散経路を主としてY染色体の変異の系統関係と分布の研究から明らかになったことを解説した書である。類書に『アダムの呪い』(ブライアンサイクス著)があるが、「呪い」がY染色体の分散から、性による系統の違いを、性行動の違いに結びつけた趣旨が強いのに対して、本書は、Y染色体の変異速度が大きいことから利用しただけで、人類拡散という至極科学的なテーマとなっている。
今や、歴史以前の人類の進歩を探る非常に有力なツールになっているDNA解析の先端の結果がまとめて書いてあるのだから、面白くないはずがない。しかも、最後は言語の系統関係との対応なんて面白い話題も出てくる。全体としては興味深く読み続けることが出来た。しかし、様々な遺伝子マーカーが、しかも、番号で出て来て、覚えているのがつらく、論理を追いかけずに結論を丸呑みしているところが多かったのが残念だった。少しは、説明図を入れればいいのに、と思っていたら、最後になって、全体を俯瞰する図が出て来た。これが初めの方にあればもっと分かりやすいのに。これから読む人が居たら、289-291ページの図を適当に参照しながら読みましょう。
本書だけではなく、英語の書物って図が少ないし下手だと感じる。イラスト中心の本になると、今度は敵わないくらいきれいなのに。ひょっとすると、出版業界の分担とか賃金とかの構造が絡んでいるのか知らん、といぶかっている。
Y 染色体から見た人類の歴史
★★★☆☆
この本の原書は Spencer Wells: The Journey of Man: A Genetic Odyssey (2002)で,この本は遺伝学的人類史の標準的な解説書として著名なものである.Oxford のサイクス教授はこの本の出た後に アダムの呪い を書いたが,この方は出来がよくなく,大したことを教えてくれない.一方ウェルズの本は,まずアフリカで出来上がった現代人が約6万年前にアフリカから出てあっと言う間にオーストラリアまでひろがり,約2万5千年前には北アジアから南北アメリカおよびヨーロッパに到着し,ヨーロッパでは Neanderthal 人を絶滅に追いやる現代人の経歴を主として男性が持つ Y 染色体上の遺伝子マーカーとその年代を手がかりに描き切る.これはまさに名著である.しかし日本語版は折角のこの本のよさを伝えてくれない.多分訳者が文科系で,理科が苦手なのだろう,絶対年代測定法のあたりは惨憺たる有様.その結果全体が読みづらいし,索引や参考文献もオミットされ,なんと訳者あとがきさえない.この責任は出版社が負うべきだろう.つまり本物の学術書をきわものと勘違いしたのだ.残念この上ない.