謎解き感覚で読める「モナ・リザ」解説書
★★★★☆
今日、傑作絵画として評価されている「モナ・リザ」。この本は、そのモナ・リザのどこがなぜすばらしいのか、非常に平明な文章で分かりやすく教えてくれる。なかでも、モナ・リザがレオナルドの死後高く評価されてゆく過程で生じた様々な「誤認」や「先入観」(=「モナ・リザの罠」)を、著者の西岡氏が博学とまではいかないものの西洋絵画に対する豊富な知識に基づいて解読していくあたりは、謎解き感覚で読めて非常に面白い。ダヴィンチ・コードを読んで、モナ・リザに興味を持ったという人には格好の入門書といえる。
ただし、西岡氏はあまりにも不十分な根拠によって、モナ・リザこそが他に比類なき人類史上最高の名画であると断定し、他の美術作品を類型化して考えるきらいがあり、実は著者自身こそが「モナ・リザの罠」に最もずっぽりとはまり込んでしまっている、という印象を受けた。
モナ・リザブームの中で静かに輝く、正統的レオナルド・ダ・ヴィンチ研究入門書
★★★★☆
ダヴィンチ・コード出版と映画化に伴ってますます軽薄なモナ・リザ本が氾濫する中
巷に流通しているモナ・リザ言説に対して冷静な姿勢で検証している点に、まず嬉しさを感じた。
また、本書中には美術評論が「難解で分からない方が優れている」ように評価されてきた経緯とそれに対する批判的な視座が見受けられるが
その意識のためか、内容の充実度に対して、全体に非常に分かりやすい文章で構成されており、美術評論になれていない人が読んでも充分理解できるものになっていると思う。
さすがはTV番組「世界一受けたい授業!!」で指名されただけある。
モナ・リザそのものの図版を用いての解釈には
印刷の精度の問題もあり、少し理解しづらい点もあったが
レオナルド・ダ・ヴィンチの生育歴や人となりの紹介のみならず
絵画等作品が、技術的出来映えのみならず時代そのものに対する卓越した見識を含むものであることが解説されており
レオナルド・ダ・ヴィンチに関するさまざまな知識を得られる点も私にとっては貴重だった。
単純にレオナルド・ダ・ヴィンチの作品のみを紹介/解説するのではなく
アルプスを挟んだ北と南の文化的風土の違いに基づき
彼の作品の特殊性を論証するあたりにも深みを感じた。
基本的には流行によって淘汰されることのないテーマが扱われていると思うが
同時に「モナ・リザ」という命名自体がイタリア人レオナルドによってなされる筈はなく
また、イタリア語と同系統の言語を用いるフランス人もこの作品を決して「モナ・リザ」とは呼ばない、という点から
話題の『ダヴィンチ・コード』にささやかにして極めて効果的な批判をしている点にも面白さを感じた。
なぜ、「モナ・リザ」の命名問題が『ダヴィンチ・コード』批判になりうるのかについては
どうぞ本書をお読みになってニヤリとなさってください。