一部要約
★★★★☆
パーデュー大学のクーパー、デミトロフ、ローという3人の学者が、1988年から1999年にかけてインターネット関連の社名に変更した63社の株価動向を調べた。社名変更の5日前から、発表の5日後までの株価変化は、他の企業の変化に比べてプラス125%だった。
人生でギャンブルに走ってはいけない時期が二つある。一つはお金がある時で、もう1つは、お金がない時である。(マーク・トゥエイン著「赤道伝いに」より)
ポートフォリオを形成する上で、主な原則。
・リスクとリターンは正比例している。
・株も債権も投資のリスクは投資期間に依存する。投資期間が長いほど、リスクは低い。
・ドル・コスト平均法(≒ナンピン)は、株式・債権投資のリスクを有効に軽減する。
インデックス投信による分散投資の理論的背景
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ノーロードのインデックス投信で,国内株式・国内債券・外国株式・外国債券の4つに25%ずつ分散投資する……以上のような投資を勧める勝間和代「お金は銀行に預けるな」を読んで,実際に投資を始めてみた。また,キャンペーン狙いからFX取引にも少し手を出し,チャートを見ながら「ボリンジャー・バンドの+2αを越え,MACDがシグナルを上からクロスしたから売りだ……」などと考えて,ドルの売り買いをしてみた。
本書は,こうした投資行動について,理論的背景や実績があるのかといったところを詳しく論じた本であり,「投資信託はこれを買え」とか「チャートの見方」など本屋に溢れている本に手を出す前に読むべき基本書である。
私自身,テクニカル分析には「フィナボッチ数列云々」など眉唾ものが多いと感じてはいたが,「過去の株価の推移は将来の株価の動きとほとんど無関係である」とまでは思っていなかったので,本書の砂上の楼閣学派批判には目を開かせられた思いであった。
《私は,株式市場は論理的な要素にも心理的な要素にも影響を受けることを強調してきた。株価評価理論は長期的な配列の流列の予測に依存するが,その成長率を的確に予測することは非常に難しい。したがって,いわゆるファンダメンタル価値は具体的な一つの数字で表せるようなものではない。それはある幅を持った価値の可能性の範囲にすぎず,この範囲内で不確実性や混乱の度合いが高まれば株価は大きく変動し得るのである。さらに,普通株の適切なリスクプレミアムは変化しやすく,投資家にとっても経済学者にとっても,何%が適切なのかは明白であるとはとてもいえない。このため,市場参加者の株価評価の過程には,希望や不安,その時々の流行などが入り込む余地があるのだ。》(344頁)
《にもかかわらず,株価は驚くべき効率性を示していることを示す豊富な証拠には唸らざるをえない。過去の株価に込められた情報も一般に公表されたファンダメンタルな情報も,すばやく市場に織り込まれる。株価はすべての重要な情報によって非常に適切に調整されるため,ランダムに選んだ銘柄のポートフォリオ,あるいはパッシブに運用された株式ポートフォリオが,専門家が運用するポートフォリオと同程度か,それを上回る運用成績を上げるのである。もし株価形成にある程度の間違いがあっても,それは決して長くは続かないのだ。》(345頁)
※引用は,第7版から。
やっぱりこれは読んでおくべき
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資産運用を考えるなら、やっぱりこれは読んでおくべき本です。基本的なテキストです。
直近のオイルマネー・米住宅バブル崩壊については間に合わなくて盛り込まれていませんが、ITバブルまではきっちり検証してありますので、下手に古い版を古書で安く買うよりは、最新版を読むべきです。
最初のほうで、過去のバブルとその崩壊の事例を、ユーモラスな描写も交えて丁寧になぞることで、読者が本の内容に興味を持ってぐいぐい読み進むことができ、結果として効率的市場仮説やモダンポートフォリオ理論についてストンと胸に落ちるという、非常にうまい構成になっています。
いちおう「資本市場は正規分布」という前提にのっとった上での話になりますが、「リスク」とは何なのか、分散投資によってなぜリスクが押さえられるのか、アクティブ運用がインデックス運用に勝てないことが多いのはなぜか、といったテーマがテンポよく語られていきます。
ただ、最後の部分は要注意です。ファイナンシャルプランナー的なアドバイスが語られるのですが、ここは日本と米国で税制や年金運用のための商品が違うので、正直言って参考にならない部分も多いです。すっごく基本的な「時間とカネに余裕がある人は、より多くのリスクを取っていい」みたいなところは万国共通で参考になりますが、たとえば変額年金保険は日本のものと米国のものは全くといっていいほど作りもターゲットも違っているのが現状で、個別の商品に関しては本書の記述をうのみにしないほうがいいと思います。
たとえばリスクを取れない人に高配当の個別株を「安全資産」という位置づけで提案する……といったあたりは、日本の個人投資家がおかれている環境にはそぐわない助言でしょう。ただし「広く市場全体を体現する指数に連動するETFを組み合わせて、リバランスしながら低コストでインデックス運用しましょうね」といった、日本でも同じようなものが手に入る商品の活用や運用の基本スタンスに関する助言は役に立ちます。
というわけで、最後のファイナンシャルプランナー的な部分は情報の取捨選択が必要になります。
個人投資家のとりうる最良の方法かな
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私が知る、最良の投資指南書のひとつ。
個人投資家が株式市場で何をしていけばよいのかが、最新の経済理論を基に説明されていく。
本書のバックグラウンドになる理論はランダムウォーク理論というもの。これは、市場は効率的だから、株価はすべての情報を折り込んでおり、株価の変動は全くランダムにしかならないという、現在の経済学の主流になっている仮説である。この理論に基づき、株式投資のニ大手法である、ファンダメンタル分析とテクニカル分析が、共に投資には無効なものである事が、演繹的に証明されていく。
興味深い事実は、株式投信の殆どが市場平均を下回っているということ、殆どの株式投信は、前年までのパフォーマンスが、それ以降のパフォーマンスと何の関係もないという事。
つまり、プロの投資家でも、継続して市場平均を上回るような投資は困難ということになるようだ。
ここで、本書がすすめる投資法が出てくる。それは市場平均に連動したインデックスファンドを毎月積み立て買いし、長期間ホールドしていくという方法。なぜなら市場平均はここ何十年もずっと右肩上がりだったから、今後も同様に成長を続けるであろうというのが本書の主張するところである。
ただこの帰納的な結論には疑問も付きまとう。株価の動きがランダムウォークで、モメンタムには一切関係がないとする前段までの理論を真とするならば、これまでの市場平均の上昇もまた同様にランダムウォークに過ぎないのではないか、あるいは過去の市場平均のモメンタムから、今後の市場平均の上昇を予測する事などできないのではないか、という疑念である。
この点がクリアにならなかったものの、ポートフォリオの組み方、リスク分散の考え方など、個人投資家には勉強になる話が多い。とりあえずは、世間に多く出回る、半年で●万円儲けた、●●式チャート、などといった類いのインチキ臭い投資本に惑わされないために、すべての投資家にすすめたい本である。
今回の金融危機
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私は今回の危機に際し、市場の効率性を再確認したというと、多くの人は反発するかもしれない。最近は落ち着いてきたが、この間、株価と企業のファンダメンタルズはほぼ一致しており、市場が大暴落するのは当然である。(保有資産の価値の毀損にも注目)歴史を紐解くと、バブルが存在するとすれば、何らかの形で、「政府の保証」や何らかの政策がかかわっており、特に不動産市場においては、純粋な市場ではありえないような価格が形成される。個人的には、リーマン危機の直前、J-REITに手を出そうと思ったが、物件の老朽化などを懸念して、結局購入せず、損をしなかった。市場というのは、たとえ各々の参加者が、個人としては非合理的な行動をとっても、全体としては知識の驚くべき集約化がなされ、非効率な側面が見られても、決して永続化することはない。
私見では、バフェット氏はアメリカ文化(マクドナルド、コカコーラなど)そのものを購入したのであって、典型的なバイ・アンド・ホールド。経済が成長すれば、それだけ彼の資産は増えていくだろう(最近はどうなったか知らないが)。大衆的な文化はそれほどめまぐるしく変化しない。したがって、彼の戦略は「妥当」であり、効率的市場仮説と矛盾するようには思われない。
どんな世界にも異常値、あるいは異端者には何らかの意味がある。新しい現実の始まりを告げるものとして捉えるべきだろう。異端的発想もいずれは一般化される。
私の文章は、書評としては的外れだが、私自身としては、効率的市場仮説におけるデータ集合も、新しい現実の始まりとともにシフトするものだと考えている。そして、常識は必ずしも真実ではないし、私たちは世界中のあらゆる知識を保有しているわけではない。
本書は、行動心理学の書籍と同時に参考にされたい。どちらも真実の一側面を説明しており、相互補完的なものと捉えるべき(適応的市場仮説)であろう。