学生やプレゼン参考用に
★★★★☆
個人的に非常に好きな建築家です。
彼の建築に対するスタンスは斬新で突飛な事を言っているようでいて、
その実、分かりやすいダイアグラムと、地道でアナログな調整による
ポストモダニズム以前への 原点回帰がベースにあるような気がしてます。
(御本人は洞窟的な原点回帰と言い換えてますが)
間違いなくプレゼン、メディアの使い方が天才的に優れている方ですが、
それを実作として世に送り出してしまうという面からも学ぶべきところは多々あります。
本書については各プロジェクトの構成、設計意図というよりは
"藤本壮介という建築家の斬新な思考プロセスのイメージ本"といった内容です。
別誌でhouse Nの竣工写真を見て正直ガッカリした記憶がありますが、
個々のプロジェクトについて具体的に知りたい方はGAや新建築等で
個別に参照された方がよいでしょう。
最近の若手建築家はシンプルな分、柔軟で分かりやすい考え方で惹きつけられます。
3巻まで出ているシリーズの中で石上純也「ちいさな図版のまとまりから〜」と併せて
手元に置いておいて損はないでしょう。
このシリーズで次回は平田晃久さんあたりを出してもらいたいです。
建築家の頭のなかをのぞきこむような
★★★★★
今非常に注目されている若手建築家、藤本壮介さんの(たぶん)初めての単行本。普通の作品集ではなく、シリーズ名のとおり個々の作品よりもそれを生み出す作家のより根源的なコンセプトに肉薄することを目的としているようですが、こと藤本さんのような建築家の場合この狙いは見事にはまってます。彼の建築同様ユニークでとても面白い本です。
藤本さんのテクストを真ん中にはさんで、冒頭に伊東豊雄さんと五十嵐太郎さんの各々短いが有益な二つの藤本論、末尾に藤森照信さんとの対談、が置かれた構成。藤本さんのテクストは、「……未来の建築を考えるということは……原初的な建築を考えるということと表裏ではないだろうか」という一文で始まり、藤本さん自身の考える10の「建築の始まり」が順番に紹介されていきます。それぞれの「始まり」には「巣ではなく洞窟のような」とか「5線のない楽譜/新しい幾何学」というようなやや詩的な標題と文章、そして作品の(模型も含む)写真やコンセプチュアルなドローイングなどが添えられています。
10の「始まり」は自由に浮遊するように、藤本さんの建築の世界を各々指し示しています。しかし、読者の勝手な愉しみとしては、10個のパズルピースを並べるように読み込んで、藤本建築の秘密について自分なりの答えを探すこともできそうです。
私には、藤本さんは、外から対象として把握される、いわば凸の物体としての建築ではなく、あくまでも内部からのみ経験される、凹としての空間「だけ」を作ることを夢見ているのではないかと思えました。宇宙空間のような「有限だけれども「果て(境界)」はない」空間。個々の作品の、波打つ壁に沿って延々と続く空間も、入れ子の空間も、細胞のように部屋が連続する空間も、すべてここから先は外ですよ、という明確な境界を持たない。あるいは頻出する生態系的な比喩も、森に棲む動物にとって森の「外」が存在しないも同然であるように、内側からしか経験されずしかもその外に出ることが意味をなさないような空間を指すものとして捉えられる。などなど。
追記:本書では模型やドローイングのみが紹介されている「house N」と「次世代木造バンガロープロジェクト」は新建築9月号で実作の写真を見ることができます。前者が持つ、青空が「一番上にある天井」として見えてくるような、不思議な感覚! あるいは後者のキューブがそのシンプルな形態ゆえに持つ「単位性」とでもいうのか、延々と反復することを含みこんでいるようなかたちが引き起こす無際限の感覚!
生きている建築
★★★★★
個人的に最も注目している若手建築家による著書。
形や技術にとらわれることなく、建築の本質を捉えようとするその姿勢には、共感できます。
建築を静的なものではなく、動的なものとして捉えているように思います。
パースや写真では表現できないところに建築の本質がある(人間は静的な存在ではない)ということを、知らしめてくれます。
独特な「関係性」に注目する発想とそれを形にする力量はさすが、非常に興味深い内容です。
現代という時代性を象徴しているようにも思います。