長年掛けて作者の脳裏に析出・結晶した終戦直後の長春
★★★★☆
あの戦争が終ったばかりの長春では、十万もの日本人が死んだというが、この作品に、それらは表だっては描かれない。日常、何が起きようが適応して生きてゆく人がいるし、適応できない人もいる。ボロ市のたつ五馬路を主な舞台に、主人公をめぐって展開する諸事、人々(特に女性)の姿や行動が、淡々と時にユーモラスに描かれる。最後の場面だけは、満州国に対する風刺か。
この小説を読んで、登場する人々がそれぞれ魅力というか個性をおびた生き方をしていると感ずる。あの戦争を思想的に支えた「日本浪漫派」に参加した作家の作品とは思えない。この作品は、著者の長春体験から20年余にわたって書き継がれ、没後間もなくにして発表された。長い間に木山の脳裏で析出し結晶したことが描かれていることになる。登場人物にも出来事にも、輝いているのはそれら結晶である。