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荒地の恋

価格: ¥1,890
カテゴリ: 単行本
ブランド: 文藝春秋
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終わり方が鮮烈 ★★★★★
実名小説ということで雑誌のゴシップ記事に対するのと同じような興味があったのだが、薫りたかい作品に出合えてよかった。
本の紹介に「親友の妻と恋に落ちた時、彼らの地獄は始まった」というとおり話は北村太郎と田村隆一の妻明子との関係を中心に進んでゆく。
しかし僕には「恋に落ちた」こと自体が感覚として納得できない。もちろん五十になっても六十のなっても心には瑞々しいところがあるから異性を惹かれたり好きになったりすることはあるだろうが、その様な心の動きを否定はしないまでも統制はするというのが妻子がいるという状況を作った人間としての責任だろうと思う。というように考えるのが僕のような散文的な人間であって詩人は「恋に落ちる」のかも知れない。
僕にとっては、明子との関係より阿子との関係のほうが生々しく実感できる。性的な描写があるから生々しい実感があるのではなく、多発性骨髄腫という有効な治療法のない病をえた六十すぎの男の心の在り様がわかる。もちろん、阿子と知り合った時点では病気は存在していなかったが、阿子に傾斜してゆく心の動きのほうが明子と「恋に落ちる」よりずっと共感できる。
時が流れ六九歳で死去。
結末に阿子の視点で語られる部分があるのがいい。
最後の4行が鮮烈。
みなさん、この本を読みませう ★★★★☆
おもしろかった。じつに!
翻訳物が日頃の読書の8割を占めている活字中毒患者として、久々に面白く読めた「和物」である。扉を開いたあと、え〜、あの北村太郎にこんなあ〜。とか、「田村あ〜 おまえ」とかいった感じの数時間を過ごした。
ねじめ正一と名前は知っていたが、彼の作初体験で参ってしまった。
みなさん、この本を是非々々読みませう。
恐ろしいほどの晩年 ★★★★☆
昔作者のねじめ正一さんがNHK教育で詩人を紹介する番組の進行役をやっておられました。
その番組が好きで毎回見ていたのですが、その中で紹介された北村太郎。紹介された詩の素晴らしさと共に波乱万丈な人生も興味深いものでした。


この本を読んで改めて北村太郎という詩人が、もとい詩人というものをより深く知ることができたように思います。
まず、まるで人の日記を盗み見ているような気分になるほど詳細に調べ上げたねじめさんに拍手を。
私はこの本を読むまで、恋愛事件を起こした後は明子さんと二人で幸せに余生を過ごされたのだと思っていましたが、決してそうではなかったようです。

田村隆一の妻である明子と知り合ったことから平凡な人生に幕を告げ、怒涛の晩年を迎えることとなった北村太郎。
もしかしたら彼はそうなることを心のどこかでずっと願っていたのかもしれません。
平凡なままでは、詩が書けなかったから。書きたくても書けなかったから。
もしかしたらそんな北村の心の声を聞いた神様が、図らずもそう仕向けてくれた。
だから平凡で幸せな人生から自分を切り離し、あえて茨の道のような人生を選び取った。
読後にそう感じました。
事実恋愛事件を起こす前は2冊しか詩集を出していなかった北村は、恋愛事件後堰を切ったように何冊も詩集を出しています。


雑誌連載されていたためか、何度も同じ説明が出てきたりして若干くどい部分もありますが、途中からこれも作意かもしれないと思いました。
北村の晩年のように荒々しくてちょっとくどい文章。
正直これが作意だったら相当なものですが・・・。
よそごと小説 ★☆☆☆☆
実名小説である。詩人・北村太郎を主人公に、友人・田村隆一の妻と不倫の恋に落ちる、その経緯を細かく描いている。何か資料があったのだろうか。しかしいくら資料があっても、会話の細部まで分かるわけはない。だから想像であろう。いかにも面白そうな内容なのに、面白くない。人物や会話が、類型的だからだ。もう一つは、会話を細かく書きすぎているからだ。もし私小説であれば、再現された会話はもっとリアリティーを持つが、よそごと小説だと、それが出ない。昔の瀬戸内晴美も、よくこういう文人の恋愛を描いたが、しかし遥かに遥かに上手であった。瀬戸内なら、会話の量をもっと減らし、事実をして語らしめただろう。なるほど、小説が下手というのはこういうことかと納得した。中央公論文藝賞受賞。
ねじめ正一だからこそ書きえた、詩人の恋 ★★★★★
新聞社で校閲の仕事をしながら、詩を書いていた北村太郎。中学生の頃からの友人であり、「荒地」という同人誌仲間には、綺羅星のごとく輝く「田村隆一」がいる。
53歳になったその時まで、北村太郎が出版した詩集は2冊。
それでも校閲の仕事で得た収入で、妻と子ども二人と幸せに暮らしていた。

「家庭の幸福」

妻と娘のやりとりを聞きながら、しみじみとその言葉を思い浮かべた北村は、
しかし、その直後、「田村隆一」の妻・明子との激しい恋に「堕ちていた」のだった。


あまりに激しいその体験を、妻に打ち明けずにはいられなくなる、北村太郎。

「じつは好きな女性ができた」

夫の告白を、妻は最初本気にしなかった。テレビから目をそらさずに、

「そりゃよかったわね。新しい部署に可愛いお嬢さんでもいたんですか」

自分の想いを茶化されたような気がして、つい大きな声で、

「真面目な話なんだ。ちゃんと聞いてくれ」

と言ってしまう。

「真面目、ですって?」


妻が向き直った瞬間から、始まった地獄。



詩人であり小説家のねじめ正一だからこそ書きえた、傑作小説。
直木賞受賞作である『高円寺純情商店街』をはるかに超えた高い地点に、
氏は新しい境地を切り開いたのではないだろうか。

詩人ゆえに鋭敏に研ぎ澄まされた言語感覚で、鮮やかに切り取っていく、「恋」の瞬間。

地獄も天国も、実際に見た風景より、さらに色鮮やかにリ・プリントされていく感じ。





穏やかな家庭を持つ人が、激しい恋に堕ちるとどうなっていくのか。
互いに家庭を捨て、奔った先に、二人を待っていたものは何だったのか。


最後が、明るいのが救いだろうか。

でも、私はこの本を読んで、
「恋は心の中にしまっておこう」
って、そっと決心したのでした。

それほど激しい小説。