連帯の変革による分業形態の変化
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下巻には、「第二編 原因と条件」と、「第三編 異常的諸形態」が収録されている。上巻が、観察可能な社会的分業の生成過程を事実として記述したのに対し、下巻ではそんな社会的分業の変革がなぜ起こるのかを探っていく。
著者は、社会的分業が必要とされる要素として、人口集中・都市の形成および発展・交通および運輸の手段の進歩などによって共同体内の密度が高まること、「社会の漸進的凝集」と、共同体内の成員数の増加による「社会内関係の増加」の二つを見出し、両者の相互作用によって社会的分業の濃度が増していき、それが一定の閾値に達することで社会的連帯の形が変わり、結果的に社会的分業の形態も変化すると論を進める。豊富な具体例を挙げて展開していくこの件を読んでいくと、デュルケム自身が社会学という名で呼んだ思考のエッセンスについて理解できた気がする。
デュルケム自身はどちらかといえば保守的な立場をとっていたように思えるし、この著作に記されている「個人は社会の産物である」という言葉や、国家が一定程度社会を統制することは当然であり、不可欠であるという考えは革新的な世界観とは相容れない。しかし、その保守的な思考がかえって社会の実在性と問題性を明確に言い当てることに役立っているし、ある意味では世界への根源的な批判の基礎にもなっている。
この書籍には、後にフーコーの「監視と処罰」でより克明になされた社会解剖の先駆となる分析が多く含まれていると思う。自分にとっては、ウェーバーより数段理解しやすく、納得できるところが多い。何で日本で人気が無いのか、名声が高くないのか不思議だ。他の人にも、デュルケムの著作をお勧めしたい。