James Taylor: Live at the Beacon Theater [DVD] [Import]
価格: ¥813
感性豊かなシンガー・ソングライターであり、ソフト・ロックの看板男であり、一世を風靡(ふうび)した吟遊詩人であるジェイムス・テイラーは、ファンや批評家筋に押し付けられたステレオタイプからの脱皮を成し遂げた。その方法は単純で、これまでの音楽的方向を堅持し、おなじみの耳当たりのいいスタイルを従来どおりに洗練させていっただけだ。この1998年のコンサートは、テイラーが職人芸を発揮し、バンド、オーディエンスの双方とたちまち心を通わせ合う様子をたっぷりと見せてくれる。演奏曲目はテイラーのキャリア全体から選ばれているが、グラミー賞を受賞した1997年のアルバム『Hourglass』からのものが目立つ。ファンはもちろん大喜びすること請け合いのディスクだが、彼の音楽に食傷気味のリスナーが見ても、新鮮な気分と超絶的なテクニックを発見できる。
今までのところ、控えめなラブ・ソングを得意としてきたテイラーだが、そのスキルは天性のものだ。繊細な感情表現、ロマンティックなイメージ、抑制の効いた演奏を慎重にミックスさせる芸風は、彼が典型的な“ニュー・エイジ・ガイ”と見なされる要因となっている。また、簡単には分かりにくいが、初期の曲に聴き取れた幻滅感は、彼の年齢に見合ったニュアンス豊かな認識へと徐々に変わってきている。『Hourglass』からのチューン「Line 'Em Up」は、第37代大統領リチャード・ニクソンの最後の掛け声の思い出を中心に展開。
無防備なまでの明快さ、ざっくばらんな哲学性を持った小品におけるテイラーの力量を端的に示す曲だ。一方、「Jump Up Behind Me」は自己決定の証と言えそうなチューンで、テーマの深刻さと曲調の陽気さが拮抗(きっこう)している。全体的に見て、テイラーのステージ・バンドはきわめて筋がよく、伴奏部分がきめ細かくて安定しており、美しいバック・コーラスとの相性は完ぺきだ。
DVD化を念頭に置いて制作された最初期のビデオ・コンサートの中で、この『Live at the Beacon Theatre』は、家庭用オーディオで楽しむのに最適な作品として、リリース以来ずっと人気の1枚だ。フランク・フィリペッティ(『Hourglass』の共同プロデューサーとしてグラミー賞を獲得し、同アルバムのエンジニアとして2個目を受賞)が手がけた5.1chミックスを聴いてみれば、その評判も納得できる。(Sam Sutherland, Amazon.com)