しょせんは昭和54年の本
★★☆☆☆
タイトルから想像される内容とは少々趣が異なり、かなりのページをイギリス航空史の黎明やアブロ創設者や第二次世界大戦に至るまでのアブロ社史に割いています。ランカスターに関する記述も機体そのものよりもランカスターの作戦行動に重きを置いたものです。
昭和54年に出版された書籍の文庫化ということで相応に古さを感じさせる内容です。一応加筆・訂正を行っていることにはなっていますが、シュレーゲ・ムジークを日本の斜銃に由来するものとしているなど、真面目に加筆訂正したとはとても思えません。ドイツの四発重爆開発失敗を単純にジョンブル気質とゲルマン気質の違いによるものとしているなど、非常に安直な考察が見られます。
イギリス航空史の黎明、アブロ創設者や第二次世界大戦に至るまでのアブロ社史に関しては他の和書であまり触れていない内容のようには思えますが、ランカスターに関する書籍としては落第点だと思います。事実誤認がいくつも見られ、お勧めできる内容ではないです。タイトルどおりの内容を求めるなら星1つです。
イギリス航空史の一側面としてのアブロ社の歩み
★★★★☆
タイトルだけで判断すると、アブロ・ランカスターという爆撃機の構造的特質やら、開発へ至る過程、大戦中の活躍に焦点を絞った内容のように思われるでしょうが、本書の前半部分はランカスターが登場する前のイギリス航空機開発の歴史と、航空機のパイオニアとしてのA.V.ロー(アブロ社の創始者)およびアブロ社のたゆまぬ努力の歩みが書き綴られています。したがって、ランカスターの技術・開発の側面に特に関心が高い人には、物足りない内容かもしれませんが、航空史に関心のある方にはお勧めできる本だと思います。
著者の鈴木五郎さんは、本書の冒頭で「アブロ『ランカスター』を単なる爆撃機として見るだけでなく、イギリス人を、さらにはドイツ人の本質を知る一つの手だて」として、イギリスとドイツの戦略思想の違いを明らかにしようとされています。最初、これを読んだときは「そんな大げさな」と思いましたが、読み進めていくうちに、この言葉の意味するところが次第に明らかとなり、なるほどと関心しました。
これは単なる爆撃機について詳述した本ではなく、ランカスター爆撃機を通してイギリス人の国民性を見ていこうとする比較文化の視点を取り入れた面白い本だと思います。