外人投資家を総じて「外人買い」「外人売り」と、ミステリアスに取り扱うメディアは多い。しかし、実際には、欧州投資家は売っても、米投資家が大量に買うなどということもあるはず。その点で、フィデリティ、バンガード、パットナム、カルパース、メリルリンチ・マーキュリーなど個々の主要投資家まで掘り下げて行動パターンを分析する著者のスタイルは、いかにも学者らしく客観的だ。さらに、アメリカとヨーロッパの投資家に分類したうえで、アメリカについては401k、ヘッジファンドにまで言及し、その背景を解説している。売買シェアやファンドの規模、日本株保有状況などの豊富な資料を交えた分析には説得力がある。
日本の株式市場に大きな影響を与えながらも、あまり知られていないロンドンでの日本株取引についても解説されている。SEAQという言葉は耳にしても、実際どんな銘柄がどの程度取り引きされているのか、誰が取り引きしているかなどの情報は入手しにくい。日本企業が、持ち合い株をわざわざロンドンで売却しているといった説明もある。株式持ち合いの解消と外国人投資家の増加が、日本企業にROE重視への経営転換を迫り、同時に高失業をもたらすという説明も反論しがたいものであろう。
テキストブック調なので、やや読みにくいところがあるが、章立てがはっきりしており、また具体的な数字や社名を使って解説されている。1回読み終わった後も、辞書代わりになる便利な1冊だ。(河野幸吾)