どうして不祥事は無くならないのか、という疑問への答えは、「企業が変わろうとしていないから」「今まで通りで良いと思っているから」です。著者が実例として挙げる山一證券の「飛ばし」や、2004年のプロ野球合併問題の「たかが選手」発言に代表される閉鎖性は、そのままでは社会の支持、市場の支持を得られなくなってきています。不透明さ、隠蔽体質が顕著になるだけで、ダメージを受けるのです。
この古い体質から抜け出せない理由の一つは、「あってはならない」の呪縛が強すぎることのようです。何か間違いを犯した時に、「あってはならない」→「発表すると大変なことになる」→「無かったことにしよう」とウソをつき、一つのウソの辻褄を合わせるため、次から次とウソをつくことになります。
著者は、「危機管理広報で大切なことは『報道されない』ではなく、『報道を一回で終わらせ、連続報道を防ぐこと』なのである」と指摘しています。この言葉を広報担当者が知っているかどうか、また企業のトップが理解しているかどうか、が重要です。何か問題が発生したときに、その後の事態の推移は全く違うものになるでしょう。
企業のコンプライアンス担当者には、絶好の入門書・実践書になるかもしれません。
事故などを起こした企業のお詫び会見でよく使われる言葉に「あってはならないことが起こってしまい・・・」というのがあるが、筆者はこういうことを言っている企業体質そのものがダメと言う。間違いが起こるリスクを100%否定しまうと、社員は小さな失敗でも報告しにくくなる。小さな失敗を隠蔽し続けると、本当にとんでもない不祥事につながる。
後半にはある工場で起きた爆発事故と、その後の対応を30分刻みで紹介する。また、共著者の五味弁護士が、ある企業で起きたセクハラ事件について、社員と話し合う形をとったケースが登場する。2つのケースはいずれも実在の企業に関するものでないとのことだが、豊富な経験をもつ2人の弁護士がいくつかの事例をかけあわせて書いているのだろうと想像がつく。とてもリアルで興味深い。また、ふつうのビジネスパーソンが、自社の不祥事を知ったときどう対応すべきなのか、考えさせ理解できる。
お題目でなく、本当にコンプライアンスを徹底させたい、現場・管理職・経営者すべてにおすすめしたい。