男の哀しい性
★★★☆☆
スペンサー・シリーズの21作目。1994年発表。
タイトルの「歩く影」というのは、事件の真相を知ってしまえばちょっと大げさなネーミングな気がします。原題も日本語訳も同じ意味のタイトルですが。つまり正体不明の尾行者を指して言っているのですが、物語の最後で明らかになるその正体にはいささか拍子抜けしました。えっ! そんな単純な話だったの!? だけどその単純でシンプルなオチに却って成程なあと妙に納得してしまった部分も少しありました。
スペンサー・シリーズ中でも、男の性(サガ)が最もよく描かれている作品だと自分は思うのですが。最後の展開で、とんでもない悪女の虜になった男の哀しい悲劇が描かれています。 作者パーカーはその悲劇の展開(緊迫のアクション・シーン)を何の感情も込めずに淡々と綴っていきます。この語り口はいくらなんでも冷酷すぎないかと少し気になりましたが、考えてみたらパーカーはバリバリのハードボイルド作家なのだから、これこそが彼の独壇場の名シーンなのでしょう。