本書は、組織の中に巣くう病理現象「自己欺瞞(ぎまん)」について述べた本である。原著タイトルは『Leadership and Self-Deception』で、全米ベストセラーとなった。
奥さんに車を渡す前にガソリンを満タンにするチャンスがあったのに実際はそうしなかった、適当な理由をつけて子どもとの約束を反故(ほご)にした、子どもが非行に走った原因を自分とは思わず、子どもに帰した、座席にゆとりのある飛行機に乗ったとき、後から乗り込んできた乗客が敵に見えた―― このような行動はすべて自己欺瞞によるものであり、自分を守るために「箱に入っている」状態であるという。本書はこうした自己欺瞞が、物事を正しく認識する機会を失わせ、個人や組織に甚大な損害を与えていると主張する。
本書は、主人公が優良企業ザグラムの管理職として同社に伝わる個別研修プログラムを受講するところから始まる。話自体はシンプルだが、さまざまな登場人物の懺悔(ざんげ)を通して自己欺瞞の弊害とそれを克服することのメリットが語られるため、非常に説得力がある。また、どんなに管理手法を学んでも効果がない、という管理者に対し、重要な「心」の視点を与えてくれている点が注目に値するだろう。
本書を通じてザグラム社の研修を受ければ、人心をつかむためにどんな態度で相手に接すればいいかがわかるようになるだろう。相手の非を責める前に、自分が「箱に入って」いないかどうかを確かめる機会を与えてくれる。(土井英司)
相手を一人の尊敬できる人間として見はじめた時、箱の外に出る
★★★★★
オリジナルは2000年リリース。邦訳の方は元々は『箱-Getting Out of The Box』という邦題で2001年10月リリースされていたが、2006年11月5日に『自分の小さな「箱」から脱出する方法』に変更し、再リリースされている。ちなみに『Arbinger』は『先駆け』という意味だ。この会社は日本にも法人を持っていて福岡にあるようだ。
ここに登場するコネチカットにあるザグラム社も調べてみたが実在しない会社のようだ。つまり実際の会社における成功例の話ではなく、ある意味『理想の会社』をイメージした産物がここでのザグラム社であり、登場人物たちということになるようだ。そのあたりを頭に入れた上で読み始めた。当然読んでいて自分の日常と比較することになる。自分は『箱』に入っていないか、あるいは隣人は『箱』に入っていないだろうかと。確かに、旨くいっていない組織ほど『箱』に入った人ばかりであり、そのことに気がつかずに一生を終えそうである。そういう視点を与えてくれたという点で非常に意味がある本だと思う。
家族も会社も人間が集まってできている組織だ。ただその組織がフルパワーの状態で稼働しているのを見るのは極めて希なことだ。一方で厳しい市場環境を生き抜くためにはフルパワーでなければ生き抜けない、というのも間違いない事実だ。組織のパワーを派閥闘争で歪めてしまった結果、市場から退場を求められる例は日々見ている。『箱』の概念はどうすれば組織はフルパワーと成りうるか、の鍵のような気がした。
自己の心的態度について深く考えさせられる
★★★★★
アマゾンレビューにおける高評価を見て興味を持ち、英語の勉強を兼ねてまず原書で購入し一読してみたが、非常に興味深い内容であったため、今度は日本語版も手に入れて、原書と照らし合わせながら再度読み返した。
本書は原書のタイトルが"Leadership and Self-deception"であるように直接の企業の経営層人材を直接の対象にしている。主題は人は会社内や家庭内で実行すべきと感じている本心を無視して行動し(これを本書ではself-deception(自己欺瞞)と呼ぶ)、その結果自分の殻(本書ではboxと言う)に閉じ籠るようになる。その結果周囲の人々を正しく評価できなくなり、会社組織や家庭環境に甚大な悪影響を与えている、というものだ。
これだけ書くと非常に抽象的でわかりにくいが、本書ではある分野で非常に成功を収めている会社の管理職の一員に転職して約1月を経過したトムが、その会社で重視されている2日研修を受ける中で、自分が箱に入っていること、それが自分が率いる組織の職場環境のみならず、妻や息子との家庭関係に悪影響を与えていたことに気付いていく過程が、実にわかりやすく描かれており、読者はトムの視線を通じて、自分自身の会社や家庭におけるありようを振り返ることができる。その内容は企業の経営層に限らず、組織や家庭で人間関係を構築している人であらば大きな指針となるものだ。
本書は非常にコンパクトで読みやすく、内容も良く理解できたが、実践するのは結構難しい。何故ならば本書のテーマは会社や家庭における表面的な行動や話し方ではなく、自分の心の持ち方、すなわち心的態度に関わるものであるからだ。表面的な態度や話し方を変えることは比較的容易にできるかもしれないが、長年かけて築いてしまった自己の箱をくずすのは簡単ではないのではないだろうか。
それでも本書を読んで自分を覆っている箱の存在に気付くことができれば、それは大きな一歩だと思う。自分自身はトムとは違った意味で箱に入っていると実感することができたし、それを意識しながら行動していきたいと思っている。そのためには本書を時折り読み返す必要がありそうだが。
移動時間に聴くには最高です。
★★★★★
とても聴きやすい音声です。移動時間にiPodで聴くにはちょうどよい速さ、内容だと思います。英語学習用にはもってこいのオーディオブック(CD4枚)です。
フェイスバリューで受取って良いか
★★★★☆
簡潔である。単語も言い回しも難しくなく英文は平易である。
会社生活におけるリーダシップだけでなく、家庭を含めた全ての生活における考え方を一新する書籍だと思う。内容それ自体は素晴らしく、共感できる事が殆どである読者が多いと思う。
しかし、全てを額面どおり理解し実践して良いか、ナイスガイ戦略が機能しない場合がないか検証する必要はある。
理由は、日本とアメリカの環境の違いが一つ。アメリカの場合、他人をoffendする(感情や機嫌を害する)事を意図的に行う事は、訴訟における高額な慰謝料により担保されているため、最悪の状況が日本とは異なるからだ。
特に部下のミスを自分のミスとして報告する上司の例が出て来るが、上司の言うとおりに実行した部下本人が責任を取らされるような会社においては絶対この本のとおりにしてはいけない。
誰かが箱から出ていることを上手く利用する輩が出てこないか疑心暗鬼になる事自体が箱に入っているという反論もあるだろう。
箱とは何かご一読下さい。
ずーっと考えさせられる、凄い本
★★★★★
「箱」の中にいるというのは、自己欺瞞の状態、つまり他人のことより自分のことが気になり、他人を責めることで自分を正当化する。そして、そのためには自分から見て他人側に問題があり続ける必要がある。他人を責めている状態が、自分を正当化する。しかしこれでは永久に問題は解決しない・・・「箱」に入っている状態には、誰もがたやすくたどり着けてしまう。身につまされる話だ。
読みすすめば読みすすめるほど、悩んでしまう。自分はどうなのか。箱の中なのか外なのか。正解は何なのか。推理小説を読んでいるような感じだ。答えが簡単に見つけられないから、ずーっと考えさせられる。凄い本だ。
最後まで読んで、どんなときに箱の中に居るのかはイメージできたが、箱の外に出る方法、そして外に居続ける方法は、一度読んだくらいでは、わからない。箱の中外どちらにいても、問題は行動でもないということだから、難しい。それでも何かわかってきたような気もする。
日本語訳が入手困難だったので原書を読んだ。それほど難解ではなく厚くもないので、チャレンジをお薦めする・・・と書いていたら、つい最近、復刊されたようだ。題名も「自分の小さな「箱」から脱出する方法」と改題され、発売になった。こちらも読んでみなければ。