今次の経済危機をソロスのフレームワークで説く
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ソロス・ファンドの代表であった筆者は最近では慈善家・哲学家としての存在感が増してきていたが、100年に一度の経済危機に際して自身のファンドのマネージャーの退職という事件もあり再度マーケットに参戦、その独自の観点で今回の危機に至る経緯並びに今後の進展について語っている。その独自な考え方のフレームワークである「可謬論」、「再帰性」を中心として従来のマーケット・キャピタリズムの基盤上の完全競争を前提として一般均衡を否定してかかっている。本人も本書で述べているように本書を書いた目的の一つがこれらの考え方についての学術的な認知を得ることであるというのは、ソロスがノーベル経済学賞受賞者を複数輩出していることで知られているLSEで学んだ過去の経験によるものか、効を遂げた財産家の知の世界への野心であるかは後世の評価を待つしかあるまい。
ソロスこそ現代最高の賢者だと思う
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オリジナルは2009年リリース。邦訳は2009年6月11日リリース。リーマン・ショックの2ヶ月前に上梓された『ソロスは警告する』の続編とも言える本である。
読了してつくづく思うのは、ジョージ・ソロスこそ現代最高の賢者であって、グローバルな視野と経験を持ち、かつ世界経済全体をより良い方向に導きたい、そしてそのためにはどうするべきかを具体的に語れる数少ない人物である、ということだ。特にこの本では『発展途上国の利益は実は先進国の利益である』というスタンスに貫かれ、100年に1度のこの危機をどう舵取りすべきなのかを、SDR(特別引出権)の発展途上国への先進国からの委譲、そして金利コストはIMFが負担といった具体的な内容で述べている。
『単なる』経済学者が物理羨望とも言える自然物理学の経済への転用で諸説を組み立てている傾向の中、ソロスの再帰性理論は間違いなく正しい(それは彼の運用益がこの上もなく確固なエビデンスだ)。ただソロスにはそれを経済学的に説明しえないだけなのだ。いつかソロスの再帰性理論を実証し、ノーベル経済学賞をソロスの名と共に残してくれる経済学者が現れるとぼくは思う。