「目から鱗」の読解用テキスト
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本書は大学のリーディング用テキストなので、15あるLessonの1つひとつは90分で行えるように作られており、一般的な授業時間が50分である高校ではそのまま使うことはできない。一方で、遅まきながら本書を手にし、私はここに実践されている活動を高校のリーディング用テキストにも応用できないかと模索し始めている。
高校レベルの視点で書きたいと思うが、本書はいわゆる普通の「長文問題集」とは異なり、馴染みの英文和訳や指示語の説明などの日本語で答える設問は一切排除されている。このことは著者のこれまでの著書(『英語テスト作成の達人マニュアル』や『英語授業の心・技・体』など)に親しんできた者にとっては了解済みであろう。また、英文の内容を理解するだけにとどまらず、理解した英文を使えるレベルにまで持っていかなければならないという著者のスタンスには一切妥協がない。このような方法は現実的ではないと捉える向きもあろうが、著者自らが日々同様の実践を行っていることを考えれば、これは決して「机上の空論」ではないだろう。そういう自らの信念に基づいた厳しい姿勢は常に自分の授業に工夫を施すことを怠らない努力に裏打ちされてもいる。
では、本書の特色について2点だけ記しておく。
・何よりも収録されている英文が読み物として新鮮で面白い。それらはおそらく著者が日頃から読んでいる新聞・雑誌・書籍から採られており、高校生であっても十分興味を持つことができる文章だ。ここで思うのが、普通の「長文問題集」の英文は、つまるところ過去の大学入試で出題された問題文であることが圧倒的に多いということである。私たちは間接的にその英文を生徒たちに提供しているにすぎない。間接的に選んだにすぎない長文問題についてあれやこれやと議論することに汲々としていた自分を省み、自分の目で見て読んで素材文を選ぶことの大切さを痛感した次第。
・各Lessonの英文には7つのPractice(Chunking / Summarizing / Commentingなど)が設けられている。かなり高度に感じられるものもあるが、生徒の実態に合わせて、ある程度難易度を調節することができる。ここでも、著者自ら英文を吟味し丁寧に作問している様子がうかがえる。Chunkingは「英文和訳」の代わりになりうるだろうし、最後のCommenting Practiceも非常にユニークである。これはあらかじめ決められた9つの意見に対して口頭でコメントするというものだが、その質問内容が飽きさせない。例えば、I know someone who is having a extramarital affair.という質問があり、こういうのは教室内では結構盛り上がるのではないかと思われる。そのほかのPracticeにおいても、常に英語でアウトプットすることが要求されている。
本書をそっくりそのまま使うことはできないだろうが、創意工夫に満ちたテキストであり、そこから多くの示唆を受けることができることはまちがいない。
授業方法を学ぶためのテキスト
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この教材は大学で使用される英語テキストであるが、新しい英語授受業を実践したいと望む語学教師、とりわけ訳読だけしかできない、だるくてうっとうしい授業からおさらばしたい語学教師にヒントを与えてくれるテキストだ。
この教材自体を使用しなくとも、ご自身が勤務校で使っている教科書をこのテキストに書かれている方法にアレンジすれば、それなりに生き生きとした授業を実践することができる。発想を変えれば、教科教育法のテキストにも応用できるテキストであろう。
ありがたいことに、この本の作者である靜哲人先生が実際にこのテキストを使った授業の様子(関西大学総合情報学部上級英語クラス有志?)が出版元の金星堂ホームページからなんと無料で見ることができる。編集はされているようだが、普段のままの授業のようである。下手な研究授業を見るより、はるかに役に立つと思う。
この本と『英語授業の心・技・体』そして、金星堂の公開動画を見ればおおよその靜流英語授業の一端を知り、学ぶことができる。
発想を変えれば、国語などの他教科にも応用できそうなので、小学校勤務の方も参考にされるといいと思う。
蛇足であるが、先に述べた靜先生の授業公開動画は次から見られる。
https://www.kinsei-do.co.jp/3881/index.html
1人、1人のアウトプット量を増やす新しいタイプのリーディングテキスト!!
★★★★☆
この本は、著者の別著『英語授業の心・技・体』の考え方をベースにした大学生(上級者)用の全く新しいリーディングテキストです。15のUNITで構成され、様々な視点から身近な問題を取り上げていて、非常に興味深いものとなっています。
著者は、「はしがき」の中で、英語力を高めるためには、英文を読んだ後で、「内容」自体ではなく、「内容を表していた英語表現」が記憶に残るような学習をしなければならないと述べています。
そのために、本著では、内容を把握するための作業時間を最小限に抑え、「内容を表していた英語表現」を何度も繰り返し口にするためのペアワークやグループワークのタスクが多数取り上げられているので、90分の授業時間の中で、学生1人、1人が英語をアウトプットする時間は70分以上になります。(ただし、学生に全てのタスクに自分なりの答えを書かせてくるという予習をさせた上の話です。)
『英語教育』2009年10月号(pp.32-33, 大修館書店)に、本書を使った著者の授業の進め方が掲載されているので(「授業内容の定着を図るテスト」特集のテスト授業の紹介という形ですが)、大変参考になると思います。
リーディングの授業を訳読式ではなく、タイトル通り"Reading In Action" とお考えの先生方、訳読式授業スタイルからの改善をお考えの先生方に是非お薦めの一冊です。CD(別売)があります。