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南京事件論争史―日本人は史実をどう認識してきたか (平凡社新書)

価格: ¥882
カテゴリ: 新書
ブランド: 平凡社
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関連書物の背景がよくわかる ★★☆☆☆
章ごとに、何年代はこのような南京に関わる本が出版され
それに対し否定派誰々がその嘘を暴いたというようなことも書いてある。

70年代に、各新聞・出版社で(ドイツ同様、米工作によるものと次章で暗に述べている)大虐殺のプロパガンダは
逆に国民は違和感を感じ、受け入れられなかったことから、30万人虐殺説などは、南京事件そのものがまぼろしにされるので(これが筆者の言う「トリック」である)筆者には大変迷惑だそうでアイリス・チャンには直接批判したらしい。

6章の稲田朋美氏著「百人斬り裁判から南京へ」を「否定説が本を出していると世間に見せかけるための本」
と書いてあり、その著書を読んだ自分にはとんでもない意見で驚いた。
読んでいないのか読んでいない振りをしているのかは解らないが、自説を覆されないよう通り過ぎたい気持ちが汲める場面であるのは間違いない。そんな風に百人斬りを否定する資料はすべて彼にとって「右翼の工作」であることが否定派に立って読むと「トリック」である。

大逆説は有り得ないけれど「まぼろし」では絶対ないという筆者の立場を踏まえたうえで読めば
ちょっとした資料にはなるので星2つ。
素人目には誠実な歴史学を求める良書に見えたが、一体誰を信じればいいのやら ★★★★☆
著者は歴史学者という事で、歴史学の正しい方法に沿った学術的な論証をこれ以上ないほどに重視している。いわば本書に流れる思いはこれまでの論争や声の大きい言説が、あまりに歴史学的学術的に粗雑である事への憂いや怒りであると思われる。そういった事からも素人目には十分信用に値するように見えた。かつて間違った写真を使用した事もあるようだが、それは本書で誠実に認めているし、そういう事も起こりうるだろうと思う。ただそれだけで著者を攻撃し続けるような気にはなれない。

ただ最終的な判断はつかない。何故そんな歴史学的な完全な判断が全くの素人である一般人の私に出来るだろうか。この手の話題を好む人は非常に多く思うが、私は長らく、というより本書を今週読むまでこの手の話題には一切首を突っ込まない事にしていた。あまりにこの話題を多く吹っかけられるので最低限の教養はつけようかと本書を手に取ったが、本書でこれまでの論争史に簡潔に触れ、改めて私のようなものが首を突っ込まないできたのは賢明だったかもしれないと思った。…というと無関心を肯定しているようで、南京虐殺の肯定派からも否定派からも怒られるかもしれないが、正直な気持ちとして私にはここまで高度に歴史学的な、語弊があるが「マニアック」ですらある話題がここまで一般的に多く言われ、関連書が多く出されしかもそれが多大な反響を呼び熱狂的なレビューが多く寄せられるという状況が不思議であり、異様に見える。そういった関心を持つ事を否定しているわけではなく、ただ単に不思議に見え、私には荷が重く思える。

本書で描かれる論争史は明らかに史実をめぐる歴史学的なコゼり合いだがこれがこれほど大規模にダイナミックに行われてきたのには驚いてしまうのだ。この写真のここがどうで間違っているだとか、この本の著者のかつての所属部隊とその進軍ルートを調べると著者は嘘をついてどうだとか、そういう事が散々書かれている。それは重要な問題であるのは分かるが私のような一般人はそんな論争は歴史学者の人がやっていてくださいと思ってしまう。それでやがて史実が明らかになるならそれを受け入れるだけでいいと思ってしまう。仮にそういった無関心をやめて自分で真実を探りに行くにしても、そうすると膨大な数の証言や文献、写真を自分で当らねばならなくなり、しかもそういった証拠からも意見がバラバラである事を考えると自分でそれらを疑ったり信じたりを選ばねばならず、疑うにはその証拠の出所などを徹底的に調べる必要があり信じるためにも同様の調査が必要となる。写真は偽物かもしれず、それを安易に根拠にすると叩かれてしまう。しかもその真偽の判断は歴史学者の大物ですら誤りうる。さらには仮に正しい証拠でも不当にプロパガンダとして否定する人が大勢いればそれに惑わされてしまうかもしれない。…こういった事を考えると私にはとても無理だし首を突っ込みたくないと改めて思う。それがこの国では多くの歴史学者でもなんでもない人がそのような高度に歴史学的な関心を持っている。これが不思議だなぁというのが、本書で論争史に触れての最初の念だ。

史料を実際に読まずに批判したりする事、不誠実で恣意的な読み方、これらは論外だろうと私も思う。だから肯定派も否定派も何かの意見の論拠になっている本は眉に唾を付けて自分で読みましょうと薦めたりする。だが何故膨大な史料に自分であたって眉に唾を付けながら丹念に一頁一頁読んでいきここが間違いだ、ここがどうだなどという歴史学者的作業に一般人が没頭せねばならないのか。そのような時間も気力も余裕も金銭も能力も関心もない一般人にとってはただただ「誰を信じていいやら」である。…尚本書では論争を辿りつつ、その論争を担い種となってきた多くの書籍が取り上げられ、丹念にその間違いを指摘したりしている。私には全て読むような元気はないが、やる気のある人はブックガイドとして使用するのもいいだろう。批判のため否定派の書籍を多く取り上げているのだから、書籍紹介として偏ってもいない。

読後今現在考えているのは、歴史学者なみに徹底して史実を論証する気も力もない一般人は、私のように半ば無関心を決め込むのか、それとも生半可な知識でもいっちょまえに史実を否定しにかかったりするのか、どちらがより誠実で賢明かという事だ。あるいは我々は歴史に多大な関心を持ちつつ、生半可ではない正しい知識を持つ義務があるのだろうか。だがその場合も学者や教師に教えられる事を信じるだけでいけないなら、我々は全員が歴史学者にならねばならないのではないか。そんなつまらない事を考えさせられた。
当事者が語った事件を後世の人間が否定する怪 ★★★★★
当初日本軍自身により報告され、旧日本軍人が戦時中残した陣中日記などでも確認された史実である、いわゆる南京事件の存在が、なぜ「論争」になったのか?その経緯を解説した書籍。

本書では、日中戦争当時南京およびその周辺地域で起きた日本軍による民間人や非武装の敵逃亡兵に対する虐殺や略奪行為が、日本陸軍内部において報告され、軍部もその対応に追われていたことを、当時の資料に基づいて説明する。更に、1980年以降に相次いで発掘された旧日本軍将兵の日記(陣中日記)に、旧日本軍が南京周辺において、民間人や非武装の敵兵を1度に1万人以上、組織的に(命令により)虐殺したことが記載されていた例を複数紹介し、その他の資料、証言を合わせ、旧日本軍が南京周辺で数十万人を虐殺したとする中国側の主張が、現実離れた主張とは言い難いと、結論付けている。

このように、旧日本軍自体が事実として認めて、学術的には何ら疑いが持たれていない南京事件が、日本のマスメディアによって、実際にあったかどうかを争う「論争」に歪曲された経緯と、南京事件を否定する議論の嘘が、本書ではかなり丁寧に説明されている。

南京市内の、南京事件後の人口(20万人程度)を根拠に、南京事件で数十万人も殺されるはずがないと主張する、意図的に不適切な情報を使う手法、南京事件に関するとされる写真や証言の一部にでも疑念があれば、それを強調し、南京事件そのものを否定しようとする情報操作など、いずれも、専門知識に乏しい一般読者を欺く宣伝であることが本書では明かされている。

特に本書では、南京事件否定派の中でも悪質な例として、東中野修道による一連の著作については、丁寧に根拠(資料の誤用や、資料を確認しない憶測による主張など)を示しながら、南京事件否定派による情報操作の手口を解説している。

本書のような解説書が出版されなければならないほど、俗説を大々的に取り上げる日本のマスメディアの姿勢も異常だが、それに対して実質的に沈黙を守り続けている、日本の多くの歴史学者達の姿勢にも、疑問を抱かざるを得ない。
読み比べてみて ★☆☆☆☆
秦郁彦氏の新書の増補版には、この本と同じような論争史があらたに付け加えられているが
そちらも一緒に読んだほうがよいと思う。
たとえば二人とも、アイリス・チャンの本が出たあとアメリカのシンポジウムに参加したことがあり、両方の本にもその時のことが書いてあるが、二人の書いてあることにかなり温度差がある。笠原氏にとって都合のよかったシンポジウムになり、その裏にあった出来事については深堀していないが、秦氏の本を読めば、そのシンポジウムの意図や誰が主催していたなどかなり詳しい。
南京事件にはまってしまうと、出口がなく大変だが、基本としては両方は最低おさえておきたいと思う。
論争史を読むならまずコレで良いのでは? ★★★★☆
著者の本は何冊か読んでいるが、どうも史料から引き出す結論がちょっと強引
すぎるなぁと感じてきた。南京虐殺事件では、多くの人が指摘しているように
「それは虐殺とは言えないのでは」という数までカウントしていたりして
なんだかなぁ・・・と思うこともある。
とはいえ、やはり学者らしく、広範な史料に基づいた研究をすすめているという
点で、この著者はやはり専門家だと思う。だいたい自分の考えとか偏見に
有利なように議論を進めるという強引さは、否定されるべき根拠がハッキリ
していないかぎり、学者ならみんな持っているものだ。

南京事件の「まぼろし派」(南京大虐殺などなかったと主張していた派。
専門の歴史学者では皆無と言っていいほど少数)と分類できる人達の本も
ちょっと読んでみたが、まったく読むに耐えない代物だった。
基本的で重要な資料を全く無視する態度は、広い範囲の史料を熟読して吟味し、
そこから議論を組み立てる歴史の専門学者とは土台からレベルが違いすぎる。

本書は「論争」(というにはかなりお粗末だが、無視するには社会的影響が
大きすぎる)の経緯を簡潔にまとめたもので、論争について一通り知りたい
人間には役立つ内容。
本来は専門的研究(歴史学者同士の議論を含む)と教育に専心するべきはずの
大学の先生がこんな本を出さねばならないのは、困ったモンだなぁと思う。