作家・有馬頼義の『経堂日記』を紹介し、この日記の面白さについて語ったあと、日記の最終日である昭和20年8月15日、午後9時の一行に目をとめる。「空襲もない、管制もない。静かな雨が降ってゐる」。
終戦の日の空の青さばかりが喧伝されてきたが、戦争の終わったこの夜、東京には雨が降った(らしい)。日本人全体が腑抜けになったようなその晩、ひとしきり暑さを忘れさせる静かな雨が降ったということに、ほっとするような思いさえする。この一行を見のがさなかった著者の眼力に感心するが、これを大したものだと思う人なら、この本は大いに読むに価する。
第二部は著者の守備範囲でもある古書の話だが、いつもながらやはりこれが楽しい。著者はエッセイの名手でもある。本によって過去が現在と溶けあう合う醍醐味は、人生そのものにも通じるのだろう。そこには不思議な人間的な味わいがある。